勇者オーディションIN寝子島！｜リアクション

勇者オーディションIN寝子島！

　まるで壁や天井が、何事かしゃべっているかのようだった。
　アップテンポなBGM。マイクを通した、司会進行役の声。曲に合わせた手拍子や、歓声。
　時には一体何の音か、ドォン！　と建材を突き抜ける音が響く。
　控室の中からでも、会場のざわめきは十分に伝わっていた。
「わ、引っかかった」
　千鳥雅人は、会場で借りた騎士鎧と格闘中だった。シャツのように着るタイプだったが、腕と身体がつっかえてしまって、頭が上に進めない。本来頭が出るはずの部分からは、アホ毛が慌ててピョンピョン揺れて見えていた。
「ん～～～～！」
　力を込めて着ようとして、ふらつく。そこで誰かに受け止められた。
「あ、ごめんなさい！」
「いいっていいって。それより大丈夫か？　チドリ」

　フィーナ・シレンツィオがそう言って、雅人の着替えを手伝う。首の穴からようやく顔を出した雅人は、息苦しさと恥ずかしさで、ちょっと赤かった。

「フィーナちゃんありがとう。サイズ、一回り小さかったかな」
「いや、ちょうどいいと思うぜ。似合ってるじゃねぇか」
　腕を動かして確認する彼に、フィーナはそう評した。
「着た時の見栄えのサイズなんだろ、たぶん」
「そういえばそうかも」
　雅人が納得したところで、再び歓声が聞こえてきた。フィーナがふっと息を吐く。
　――やっぱ、チドリと来て正解だったな。
　何日か前のことだ。イベントに興味を持ったフィーナが、外でポスターに見入っていた時、雅人に声をかけられたのだ。
　一人で出るには恥ずかしいものがある。それさえなければと思っていたフィーナは、彼を誘ったのだった。
「チドリなら、前のこともあって安心できるし……な、頼むぜ」
　そして、今に至るというわけだ。
「フィーナちゃんの衣装は、それ？」
「ああ。メイドたちが用意をな」
　どこか歯切れ悪く答えると、フィーナは衣装箱を手に更衣室へと入っていった。台に置いた箱を開け、なんどしたか分からないため息を吐く。
「コレちょっと凝りすぎだろ」
　――どうぞ姫騎士をご堪能ください、お嬢様♥
　中に入っていたカードの文字をもう一度追う。『騎士』にしては雅人のそれと比べ、明らかに胴を覆う箇所が少ないそれ――そのくせ、腕が妙に豪華だったりティアラの意匠は細かかったりする――に、フィーナは金と赤の目に複雑な感情を浮かべた。
　普段とは少し方向性の違う服。しかし雅人を待たせるわけにもいかない。
「あいつらどんだけ暇なんだよ」
　結局そんな言葉を紡いで、フィーナは着替え始めた。
　その近くでは、篠原翠響が衣装を手にうなっていた。
「ビキニアーマーじゃないだけ、まだマシだったかしら……」
　そんな風に言うも、目前の女剣士の衣装は、ちょっとばかり露出度が高い気がした。ノースリーブはまだ良いとして、
　――おへそ、見えちゃうわね……。
　新体操をやってることもあって、普通の人より薄い生地には慣れてるとは思う。しかし生地が『ない』となると、翠響も心理的な二の足を踏んだ。
「風邪ひかないかしら」
　とはいえスタッフにお任せしたのは自分。その前段階の現地スカウトで断れなかったのも自分。競技のつもりでパフォーマンスをすれば、きっと寒さも恥ずかしさもなんとかなるだろうと、翠響は服を脱ぎ出した。

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