シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

「俺も飾りつけの買い物だけど、今住んでる家にツリーが置いてないから……」
　きょろきょろとあたりを見回す雅人。
「クリスマスリースとミニツリーを買おうかなーって」
　ふんふんと頷くはつな。
「小さなツリー、卓上サイズの。きっとかわいいよ！」
　雅人の言葉に、大きく頷く。

　プラザツリーや、ツリーを自分で育てることのできる缶のプランターなどを見ながら、精巧なツリーのモデルを見つける。
　一寸高いところにあるのを、朱蘭がさりげなくフォロー。
　さっと、手に取りやすい位置に移動。
　何気ない行動に、ミルカは、
（お姉さんだな……）
　と改めて思う。
　感謝を述べて、雅人は小ぶりなツリーを掌に載せる。
「千鳥くんは、それ買うの？」
　一緒に覗き込むはつな。笑顔になる。
「綺麗～！　私も買おうかな～……」

「見て～！」笑いながら、はつながサンタ型のクッキー型を掲げる。「すっごいクリスマス！」
「……あ、その型いいね！」
　そのまま一緒に、様々な型を手に取って眺める。
「これで色々作ってみたいな……」
「そうだ……部活のみんなに、クリスマスクッキー作るのもいいかも」
「千鳥君も、お菓子作るの？」
「趣味でね、結構作るんだ」
　一寸男らしくないかな、と笑う雅人。
「私も！　私もなんだ～！」嬉しそうに笑うはつな。「今度、おすすめのレシピ、教えるよ～！」
「ホント？　それじゃあ俺もレシピ、教えるよ！　交換会だね～！」

　緊張していた様子のはつなも、次第に打ち解けてきた。
　のんびりで気分屋の雅人、これほど快適にいられる相手も少ない。
　はじめて会った同士とは思えないほどの意気投合っぷりだ。
　
　ゆっくりなはつなではあるが、弛緩しているということはない。
　彼女なりに張りつめ、充実しているのだ。
　やわらかな曲を奏でる琵琶や胡弓が、精緻でこまやかな手入れが必要なのと同じだ。
　そういった点では、細やかで優しい雅人は、こよない彼女の理解者であった。
　琴瑟相和す――の例えが、適当かどうかはわからないが。