シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

（……おっと）

　猫の置物に手を伸ばした千鳥雅人は、思わす手を引っ込めた。
　同じく伸ばされた指先に、触れてしまったからだ。

「あ、ご、ごめんね～！」
「すみません～」
　ゆったりした、やわらかな声が返ってきた。
　慌てて声の主を見ると、ふんわりした服装の、長い黒髪が印象的な女の子。
　このあたりで、見たことのない女の子だ。
「あ、あの～」
　おずおずと、少女が雅人に話しかけてくる。
「もしかして、寝子高の人～？」
　ゆっくりした話しぶりだが、いささか緊張している様子がある。
　雅人は頷く。　何で分かったんだろうと思ったが、そういえば部活の帰り、制服のままだった。
――制服がわかるってことは、寝子高の関係者？
――でも、このあたりで見たことない……。
　他校生かとも思ったが、イントネーションが特徴的だ。
　……と言うことは、転入生？
「……俺、千鳥雅人だよー」
　緊張をほぐすように、笑顔を作る。
「……うん！　私、回田はつな！　転入生なんだ。よろしくね！」
　ほっとしたように、はつなが笑顔をあふれさせた。
「よろしくね！」
　雅人も笑う。

　まだ慣れない寝子島のショッピングで、勝手がわからなそうなはつな。
　雅人が案内し、島のあれこれを教えてあげるのもいい。
　幸い、寝子高の友人も来店しているみたいだ。

　……いや、それだけの理由じゃない。
　雅人の落ち着いて、優しいムード。少し緊張しているけど、やわらかで落ち着いたはつなの様子。
　それぞれ互いにとって居心地がよく、ふんわりした気分になれるのだ。
　もう少し一緒にいて、親しくなりたい。お互いのことを知り合ってみるのもいい。

　雅人は、先ほど買おうとしたグッズを見る。
　ゆるゆるな猫の、飾りつけだ。あまりにも緩い。自分以外に、欲しがる人間がいるとも思えなかった。
「はつなちゃんは、クリスマスの飾りつけ？」
　雅人の質問に、はつなは「そう！」と嬉しそうに答える。
「私は、クリスマスツリーの飾りを探しに来たの。
　ツリー自体は家にあるんだけど、飾りが少なくって～……」
「それなら……」
　機敏に動く雅人。
「……雪だるまのマスコットとか、この大きい星とかどうかなー？」
　差し出された星を、嬉しそうに受け取るはつな。
「あ、この雪の結晶もいいかも……！」
「いいね～！」はしゃぐはつな。「絶対キラキラだよ～」

　お客さんに品物の説明をしようとするミルカに、朱蘭が目で合図する。
　――必要ありませんね。
　夢中で選ぶ雅人とはつなには、他のナビゲート役は必要なさそうだ。
　頷いて、ミルカはレジに戻る。
「気が利くじゃねえか」
　テオの言葉に、朱蘭が笑顔で答える。
「お客様が快適に過ごされることが、店員の第一の使命ですから」
「誰だお前」

　品出しをしようとした朱蘭は、あることに気づく。
　二人の買い物した後は、商品の陳列を直す必要がない。
　はつなが二人で見た品物を、ていねいに元あったように戻しているのだ。
　商品の型崩れもない。丁寧で繊細な心遣いが窺えた。
　ゆっくり、のんびりしているけれど、几帳面でしっかししている。
　彼女のよいところを、雅人のペースが、うまく引き出している感じだ。