シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

　そんなミルカ達の話を聞きながら、商品を手に取るのは城山水樹。
「そうね……ちゃんとした故事来歴があるんだもね……」

　彼女の目的はひとつ。
　図書館読み聞かせ会を盛り上げる、クリスマスグッズを手に入れるのだ。

　寝子島図書館で行われる「小学生読み聞かせコーナー」。
　ボランティアの学生らが中心となり、本の読み聞かせを行う。
　本に親しみ、図書館を積極的に利用してもらおうというこの試みは、望外の好評を得ていた。
　水樹は中心となり、様々なアイデアを提案したり、積極的なアピールを行っていた。
　モデル活動も忙しい彼女の、精力的な活動は皆に感謝されていた。

　毎年恒例の「クリスマスストーリー読み聞かせ会」を、水樹が主体となって行うという話が出たのは、先日のことだった。毎年、ディスプレイを行って、飾りつけで気分を盛り上げる。
　好評の企画である。だが、例年と同じでは面白くない。

「せっかくだから、豪華にやってみたい！」

　そう考えていた彼女。
　クリスマス気分の街をぶらついていたとき、Joulupukkiを目にした。
　なんとなく、直感で店内に入った。
　
　往々にして、水樹の直感は当たる。
　
　ツリー、リース、オーナメント。さまざまなクリスマスの雑貨が、出来合いのものと少し違うことは、すぐにわかった。
　店員とお客の熱の入りようも、何か違う。お仕着せのようなところがない。
　自然、クリスマスのムードが高まってくる、
（そういえば、クリスマスも間近ね）
　
　――。
　人形。家のミニチュア。それから宗教のイコン。
　北欧の、本場のものだ。
　店員の解説にもあった。歴史を背負い、重厚な文化と、血の通った人の生活がある。

（――）
　
　引き込まれるように、水樹はそれらを見る。
　脳裏ではそれらがゆっくり起き上がり、緩やかにカドリーユを踊り始める。
　今度の読み聞かせで使うため、何度も練習し、すっかり自分のものにしたクリスマスストーリー。
　彼らは、それを演じ始めていた。

（全体的には、幻想的にまとめつつ……）
（子供たちが、年に一度のクリスマスに抱く、わくわくとドキドキ……）
（それらを表現できたら……）

　見てくれは派手ではないが、本場の人形は、感受性の強い子供たちに訴えるものがある。
　普段とは違った、特別な体験を提供できる。
　
　―ｰこれと、これと、これ。

　水樹に迷いはない。出来上がったクリスマス会のイメージはゆるぎない。
　妥協はできない。他の商品では、ぜったいうまくいかない。
　サンタクロース、トナカイ、おもちゃのソリ…・・・・。
　パズルのピースのように、それらは欠けてはならないもの。

　予算？　そんなの、考えたことない！
　――なんて言っても、後悔は少な目じゃないと！

　豪快に籠に投入する水樹。