【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト｜リアクション

【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

　ステージで二重奏がはじまった。ヴァイオリンとアコースティックギター、弦と弦との共演だ。
　藍川慶介がヴァイオリンを奏でる。といってもクラシックではなく曲はフォーク調、楽しげなリズムを意識的に刻んだので、この場合ヴァイオリンというよりは『フィドル』と呼びたい。慶介のフィドルにあわせて樋口弥生も、縦横無尽にアコースティックギターを踊らせるのだ。
　曲は、フォークの定番『スカボロー・フェア』、これをぐっとテンポを速く、スキップするように奏でる。そこから途切れなくクリスマス定番曲のメドレーに入っていった。『赤鼻のトナカイ』『サンタが街にやってくる』、『ジングルベル』……いつの間にか手拍子で客席は応じ、教会内に楽しいクラップリングが満ちあふれた。
　――すごい、樋口先生って本当にすごい……！
　簡単な打ち合わせだけのぶっつけ本番だというのに、弥生は完璧に慶介に合わせてくれていた。それどころか慶介が小さなミスをしても、全部拾って回収してくれている。それでいて彼女は、常にヴァイオリンが目立つようにフォローに回っているのだ。楽器演奏をあまり知らない人からすれば、ずっと慶介がリードしているように聞こえたことだろう。実際は逆だというのに。
　慶介は額に汗をかいていた。彼の淡いブロンドも、汗を吸って照明を反射している。フィドルから自然にあふれだすのは、ポジティブな波動をもった希望の音色だ。
　――楽しいです……！
　視線で弥生にそう告げると、彼女も目だけ微笑して返してくれた。
　憧れる、彼女に。
　弥生先生の下で学びたい――この夜慶介は、その決意を固めたのだった。

　愛こそすべてと言いたくもなる。
　飛吹蓮太郎は立ち上がって喝采を送った。

　まったくまったく、今日はほんとうに素晴らしい。
　これで無料とは本当、神様の愛に感謝したいところだ。
　よほど嬉しそうな顔をしていたのだろう。
「どうですか、一言」
　蓮太郎のところに少女記者がやってきた。椿美咲紀だ。くりっとした頭の良さそうな目をしている。
「ハグしたい」
「え？」
「それくらい胸を打たれた、ってことさ。いやらしい意味じゃなく、この気持ちを分かち合いたいんだ」
「ははあ、そういうことなら」
　美咲紀と蓮太郎は親子のような抱擁を交わす。ぽんぽん、と背中をたたき合ったりして。
「ええそれで、具体的な感想などいただけると嬉しいのですが」
　美咲紀はふたたび取材モードに入った。ハンディレコーダーのスイッチを入れる。
「そうだなあ……やっぱりね、教会は音響が違う、と思ったな。教会のパイプオルガンや歌声が、神秘的で心が癒されるんだよなあ。シスターや聖歌隊の皆もかわい子ちゃんばかりで良かったねぇ……思わずハグしたくなるイエナンデモアリマセン私ハ心清ラカナ哀レナ子羊デスハイ」
「ハグした相手になにを言いますやら」
　急に目が泳ぎだした蓮太郎に、あははと美咲紀は笑ってしまった。
「おおそうだった！　そうなんだよなあ、俺、ほんとそんな変な意識ないのに、誤解されやすくてね……すぐ怒る知り合いがいてさ」
「それで、飛び入り参加とか募集されているようですが、参加されないんですか？」
「なに！？　飛び入り参加オッケィ！？」
「知らなかったんですか？」
「いや知ってたけど……そこはほら、お約束で」
　ぽりぽりと蓮太郎は頭をかいた。ついサービス精神を発揮してしまうのが彼の癖だ。
「というわけで行ってくるよ！　取材頑張ってな！」
「はいなのです」
　いよいよ大合唱ということで、コーラス隊に加えてもらうべく蓮太郎も舞台に向かった。
　――あ、さっきの記者の子、名前と携帯番号聞いておけばよかったかなあ……。
　いかんいかん神聖な場所で、などと自分を戒めつつ、参加受付を探す彼である。