添い寝日和のお猫様｜リアクション

添い寝日和のお猫様

　カタカタカタカタ……。
　　　　　　　　　　　　　　　カタカタカタカタ……。

　規則正しい音が、桜花寮の恵御納夏朝の部屋に響く。
　数枚の毛布を手頃な大きさに切り分けて、夏朝がミシンをかけていた。
　幅４０ｃｍぐらいだろうか。
　夏朝が縫っていた毛布の大きさは、大体それぐらい。
　それを一枚手に取り、夏朝は広げてじっと見つめてみる。
（これで、入るのかな？）
　ぐいぐいと、軽く左右に引っ張ってみる。
　細部を手縫いで補正し、夏朝は満足げに頷く。
　数時間頑張っていた甲斐あって、手づくりでも十分使える毛布の寝袋が数枚、完成していた。
　もちろん、それは夏朝が使うわけじゃない。
　猫達の為の寝袋なのだ。
（ネコッターでも、随分噂になっているんだもん。猫さん達、寝れてないの）
　寝子島のあちらこちらで、寝不足の猫達を見かけているとの情報が流れているのだ。
　噂を聞いて、夏朝がまず最初にしたのは、桜花寮の自室でこっそり飼っているあの子を確認することだった。
　でも、今回の事件には巻き込まれずに、とっても静かに眠っていたから、夏朝は次の行動にでたのだ。
　即ち、野良猫達の救済。
　家猫達はいいのだ。
　なんだかんだ、高確率で飼い主達が気づくだろうから。
　でも。
（こんな寒い冬の野外で、眠る事も出来ないとか辛すぎるの）
　外で過ごす猫達を思い、夏朝はふるふるっと身体を震わせる。
　外はもう大分暗い。
　急がないと。
　夏朝は自分用の寝袋の中に、出来立てほやほやの猫用寝袋を詰め込んで、猫シールをぺったん♪
　ろっこんの力で羽根のように軽くなったそれを片手でひょいっと抱え、夏朝は黄色いコートを羽織って桜花寮の窓から抜け出した。
　
　

　夏朝が向かったのは、公園だった。
　夜の公園は野良猫達が良く集会を開いていたりするのだ。
（やっぱり、いるの）
　夏朝は自分の予感が的中した事に、こくりと頷く。
　公園には、数匹の野良猫達がたむろし、威嚇しあっていた。
　夏朝は、その内もっとも苛立っている野良猫に近づく。
「寝れなくて、困ってるんだよね……。大丈夫……怖くないよ。一緒に寝よう？」
　引っかかれるのを覚悟の上、夏朝は野良猫に手を差し出す。
　瞬間、ふしゃーっと威嚇して尻尾を膨らませる野良猫。
　後もう少し手を伸ばしたら、きっと夏朝の手は猫の鋭い爪の餌食だろう。
　けれど夏朝は動じない。
　眠らせてあげたいのだ。
　野良猫達を。
　夏朝の差し出した手に、情け容赦なく噛み付く野良猫。
　夏朝は痛みに耐えながら、もう片方の手で野良猫の背を撫でる。
　ふーふーっと威嚇しながら夏朝の手を噛んでいた野良猫は、次第に逆立てていた毛を落ち着かせ、じっと夏朝を見つめだす。
「ほら……おいで？」
　沢山の猫用寝袋の一つを差し出して、夏朝は促す。
　夏朝に敵意が欠片もないことを悟った野良猫は、猫用寝袋に入るとまぁるくなる。
　寝袋の上から夏朝は撫で、隣に寄り添う。
　すると安心して野良猫は寝息を立て始めた。
（やっぱり、辛かったんだよね。何日寝れなかったのかな）
　夏朝は次ぎの野良猫を探す。
　寝れない子は、一匹じゃないはずなのだ。
「ほあっ？」
　きょろきょろと周囲を見渡して、夏朝は、ちょっと変な声を上げた。
　野良猫達が、夏朝が持ち込んだ寝袋にちゃっかり入っているのだ。
　猫用はもちろんんこと、夏朝用の寝袋にまで。
「人用の寝袋に……猫さん、沢山……！」
　特に夏朝の寝袋には、親子でちゃっかりまぁるくなっている。
　でもまだ眠れてはいない。
　夏朝が、添い寝してあげないと駄目なのだ。
　だが夏朝の寝袋は野良猫達に占拠されているわけで。
（よし！）
　夏朝は意を決して、そのまま地面に寝そべる。
　猫達の為なら、何だって出来るのだ。
　夏朝が添い寝することで、野良猫達は次々と寝息を立て始める。
　そんな幸せそうな寝顔を眺めて、夏朝もいつの間にか眠ってしまっていた。
　――次の日の朝。盛大なくしゃみと共に風邪を引いたのは、きっとお約束なのだろう。
　

このページにイラストを設定する