オーブラジャー！　久保田美和、人生２回目のピンチ｜リアクション

オーブラジャー！　久保田美和、人生２回目のピンチ

【１１】

「あ、雪……」
　日が暮れかけた頃、はらはらと寝子島に雪が降り始めた。
「大丈夫？　さむくない……？」
　赫乃が気遣うと、美和ちゃん先生も竜太郎も元気に「へーき！」と答えた。
「子供は風の子か。元気だな……」
「うん、でも、灯さんも、さむくない？」
「僕？　僕も平気だよ。心配してくれて、ありがとう」
　斗南は照れくさそうに微笑んだ。
　長かった道のりももう少し。動物園まで、あと一歩のところまで来ていた。
「……でも、この子達の両親はどこに行ったんだろうな」
「……ここに、くるとき、何か、見えた気もしたけど……」
　そのとき、不意に美和ちゃん先生が走り出した。
「あー、パパ！」
「……パパ？」
　前の角を曲がるコートの男性の姿が見えた。
（今のが先生のパパ……？　パパってあの人だよな……？）
　前に見た、美和ちゃん先生の父の姿を斗南は思い出した。
　でも、それならどうして美和ちゃん先生を放ってこんなところに……？
「あ……、灯さん、追いかけない、と……」
「え……？　あ……！」
　そんなことを考えている間に、美和ちゃんはひとり『パパ』を追って、姿を消していた。

　美和ちゃん先生は狭くて暗い路地裏に入っていった。
　パパ……らしき人影に追いつき、声をかける。すると、その人影はくるりと振り返った。
「ふふ、おじさんがお嬢ちゃんのパパなのかい？」
「！？」
　背格好こそそっくりだが、その顔はお父さんとは似ても似つかない怪しい男だった。
　それもそのはず、この男こそ、誘拐未遂で警察が捜査している誘拐犯だったのだ。
「パパ……じゃない」
「そうだね、パパじゃないねぇ。でも、パパになってあげるよ、ふふ……」
「こないで！」
　後ずさる美和ちゃん、しかし、何かにつまづいて転んでしまった。
「おや、大丈夫かい？　ふふ、パパがついてるから心配ないよ」
「や、やだ……」
　誘拐犯はじりじりと美和ちゃんに近づく。
　そのときであった。どこからともなく、高笑いが鳴り響いた。
「はーはっはっは！　ようやく見つけましたよ、美和ちゃん先生！」
　ビルの上、灰色の空を背にして立つ人影。
　その身体はテカテカと桃色に輝いていた。
　常備している桃色全身タイツに身を包み、現れたのは下心。
「俺の名前は横嶋下心、桃色破廉恥小隊の隊長さ！　俺が来たからにもう安心！　先生は渡しませんよ！」
「な、なんだ、あいつ……！　ほら、こっちに来い！」
　誘拐犯が先生に手を伸ばしたその瞬間、飛び降りた下心のチョップがその手を打つ。
「よこしま～！　縁切りチョーーップ！」
「だぁ！　何しやがる！」
「それはこっちの台詞ですよ、誘拐犯！」
　びしぃと下心は人差し指を突きつける。
「君のような邪悪な人間に誘拐させるくらいなら……！」
「くらいなら……？」
「俺が美和ちゃん先生を誘拐します！」
　先生をお姫様抱っこすると、下心は全速力で走り出した。
「おろしてー！」
「お嬢さんすまない、君があまりにも可愛くて胸のドキドキがどうしても止められなかったんだ」
「ええっ！？」
「こんな行動に出ちゃったんだけど、こんな俺でも許してくれるかい？」
　そう言って、キラリと白い歯を輝かせた。
「ははっ、なんて冗談ですよ。安全なところまで行ったらおろして……」
「ま、待て！　それは俺の獲物だぞ！」
　慌てて追いかけようとする誘拐犯だったが、次の瞬間、全身を炎に包まれて悲鳴を上げた。