みんなで、フルーツ三昧！｜リアクション

みんなで、フルーツ三昧！

レシピ１　家庭科教室に集合！

　フルーツ三昧の会当日の日曜日。
　寝子高の家庭科教室へと向かう千鳥雅人のアホ毛は、まるで犬の尻尾のように小さく打ち振られていた。
（今回は、フルーツがたくさんあるんだよねぇ。張り切って、美味しいケーキを作っちゃうぞー）
　胸の中でそんなことを呟きつつ、鼻歌混じりに廊下を歩いて行く。
　その少しうしろを同じように、家庭科教室に向かうのは日暮ねむるだった。
（フルーツが食べたくて、参加表明したのはいいけど、正直料理ってあんまやらないんだよなあ……。う～ん、どうしよう……）
　小さく頭を掻いて、そんなことを思う。
　その彼の目に、前を歩く雅人の姿が映った。
（もしかして、彼も参加者かな？　ちょっと、声をかけてみよう）
　胸にうなずき、足を早めて歩み寄る。
「千鳥くんも、フルーツ三昧の会に行くんだよね。もしよかったら、君のお手伝いしてもいいかな？」
「もちろん、いいよー。今日はね、フルーツケーキを作るつもりなんだ」
　うなずいて言う雅人に、ねむるは軽く眉根を寄せた。それが簡単なのか難しいのかが、わからなかったのだ。
　だが、それに気づかない雅人は、続ける。
「ケーキに使うヨーグルトとホイップクリームの素とカステラは、ちゃんと用意して来たから、あとは先生にフルーツを分けてもらうだけなんだよー」
　肩から下げたバッグをポンと叩いて胸を張る彼に、「用意がいいんだね」とねむるはうなずいてみせた。
　そうこうするうち、二人は教室の前へとたどり着いた。
　中にはすでに何人かの参加者が来ていて、白沢絢子と挨拶を交わしたりしている。
「天之川君、今回も参加してくれてありがとう。……わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「はい、白沢先生。がんばります」
　絢子に言われてうなずいたのは、天之川麗仁だ。前回の『かぼちゃ三昧の会』にも参加している。
（前の時は、白沢先生に褒めてもらうことができたし、料理好きな人たちと交流もできて、本当によかった。……今日もまた、楽しめるといいな）
　ふと、そんなふうにも思う。
　一方、絢子の視線は彼から、隅の方の調理台でエプロンをつけている朝鳥さゆるへと移った。
「朝鳥さん、今日も来てくれたのね」
　おっとり優しい笑顔を浮かべて歩み寄ると、さゆるは浮かない顔を上げる。
「おはようございます」
　挨拶したものの、相変わらず笑顔はなかった。これまで同様、自発的な参加ではないからだ。
　そう、今回も絢子に誘われて、断り切れずにやって来たのだった。
（……本当は、参加するつもりなんてなかったのに。前回も、その前も、調理の最中に昔のことを思い出して、胸がつぶれそうな気分になったもの……）
　胸に呟き、「今日も楽しんで行ってね」と笑顔で告げる絢子に、彼女はただうっそりと頭を下げる。
　むろん、昔のことを思い出したのは、絢子のせいではない。それはわかっている。わかってはいるが――。
（考えても、しかたがないわ）
　小さくかぶりをふって、再度胸に呟くと、彼女はエプロンの紐をきつく結んだ。
（それに、今日はもう、昔のことを思い出さないように、自分で考えたレシピの料理を作るつもりだもの）
　自分に言い聞かせるように呟き、彼女は背筋を伸ばした。

　そうこうするうち、時間は十時になり、家庭科教室には今日の参加者全員が集合した。
　教壇の上には、絢子が持ち込んだ六種類のフルーツが、それぞれダンボール箱に入れられ、並んでいる。
「フルーツはたくさんあるから、必要なものを持って行ってね」
　絢子が、参加者たちを見回して告げる。
　一同は、順番にザルやボウルに必要なフルーツを取り分け、思い思いに調理台へと散って行く。
　全員にフルーツが行き渡ったのを確認し、絢子はうなずいた。
「それでは、始めましょうか」
　彼女の号令と共に、参加者たちは調理を開始したのだった。

このページにイラストを設定する