＜月華＞宵闇邂逅～それはフツウを壊すモノ？～｜リアクション

＜月華＞宵闇邂逅～それはフツウを壊すモノ？～

（闇雲に正面から戦っても危ないし、ちょっと調べてみようかな）
　陽太のろっこんは『操り中の粘土細工との視覚共有』を進化能力として得た。故に調査にはもってこいだ。
　襲い掛かってきたところを交わすついでなどを狙い、４体全てのゴーレムに粘土細工を配置し、違う箇所や攻撃の仕方を観察すれば、１体だけ額に蒼い宝珠をつけた物がいた。籠城戦の参加者が見れば、貰った勲章についていた宝珠と似ているが違う、と思うだろう。どこか濁った蒼い宝珠は黒い靄を纏うと、音も無く影の玉を放ってきた。
「わわっ！　下がって！！」
　陽太の言葉に、戦闘していた者たちが散開する。運良く誰にも当たらなかったものの、当たってしまったら、と思うと怖い。
「このゴーレムの中に、１体だけ蒼い宝珠をつけている奴がいるんだ。そいつがさっきのを撃つから気をつけて！」
　陽太の言葉に、戦っていた者達は皆気を引きめる。
　影の玉にひやり、としつつも志波武道はふぅ、と一息つきながらも表情には内心の怒りがほんのり滲んでいた。
「うーん、『無理も無茶もしなきゃならない時』ってことかな、これってさ？」
　なんと軽い調子で言っておきながらも内心では
（関係のない先生を巻き込んだのは許せないな）
　と言っているほどなのだ。
　ゴーレムたちの動きは、幸いにも怖い。だが、腕から繰り出されるパンチはとても強力である。それに、１つだけ影の玉を撃ってくる。
（俺のろっこんは、多分あれには効かないだろうな）
　武道のろっこん『スイ・マー』は肉体を手刀で突く事でその部分を麻痺させるのだが、相手はゴーレム故にそう考えた。
　暫らく観察していた黒依アリーセは、僅かに首を傾げる。
「黒曜石の高度は確か５で、それほど固いほうではないけれどナイフで傷が付く程度だったかしら」
　大きく砕くにはそれなりに力が要る。アリーセが顔を上げると陽太と武道と偶然にも目が合った。
「すいません。武道さん、呉井さんちょっと……」
　アリーセに呼ばれ、２人は少し下がる。彼女は真剣な表情で２人に思いついた事を話す。それに陽太と武道も観察して得た事を交え、３人はすぐさま作戦を立てた。
「力を貸してください。お願いします」
　アリーセの言葉に、２人は頷く。
　僅かに聞こえた作戦に、夏朝は「なるほど」と思いながら確認したねこシールの数を思い出す。
（今回は余裕がある。でも無駄遣いしないようにしなくちゃ）
　彼女は１つ頷き、戦場に目を移した。

　数々の修羅場を潜ってきた御剣刀は冷静にゴーレムと虚空の帳を見、考察する。彼は飛んできた影の玉を自然な動きで避け、攻撃を交わしながらも意識を帳へと向ける。
（帳は、影の魔物に見えるがはっきりとした自我があるし、ちょっと違うな。だが、『愛憐』関係で間違いないだろうな）

　新たに現れた自分達が、『自分の復讐にとってどういう影響を及ぼすのか』の確認、と考えるべきか？

　刀は月長石を握り締める。ただの月長石ではない。天狼族の新たなる王、ライメイに聖なる光を分けてもらった物だ。
（影の魔物のダメージを軽減してくれるなら、何か変化が現れるかもしれん）
　刀はちらり、と結界の方を見た。そこには結界に閉じ込められた孝文を助けようとする者たちがいた。それが勅使河原悠、仙藤紫、椿美咲紀の３人だった。
「な、永田先生？！」
　悠は、この光景に思わず血の気が引いた。慌てて走りより、声を掛けるも声は届かないように見える。そんな彼女の様子を心配しながらも、紫もまた表情を曇らせる。
（こういう場面では、戦闘向きではないろっこんしか持たない私には、荷が重いわね）
　紫は内心悔しく思いながらも、できる事を模索していた。目の前には硝子のような物の中に閉じ込められた孝文がいる。みんなの先生だ。助けないわけにはいかない。
（だからと言って、見捨てるわけには行かないわ）
　彼女はそっと結界に触れ目を細める。硝子のようでも簡単に割れるはずも無い。ならば……。

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