＜月華＞宵闇邂逅～それはフツウを壊すモノ？～｜リアクション

＜月華＞宵闇邂逅～それはフツウを壊すモノ？～

序：ダンス・ウィズ・ゴーレム

（やりづらそうだな）
　そう思ったのはアルバイト中だった暗道忍。彼はちょうど寝子高へ荷物を届けた帰りにトラブルに遭遇していた。
　少し離れた場所では、ここの生徒だろう少年少女が黒いゴーレムっぽい何かと対峙している。虚空に浮いた女性は気になるがまずは、このゴーレムっぽい物への対抗手段だろう。
　すこし近寄ってみると、そのゴーレムは黒曜石で出来ているように見えた。忍は肩を竦める。
（素手でやりあうのはさすがにあれだ。安全靴だけじゃ心もとないな）
　仕事の都合で穿いている安全靴を見て眉を潜め、何か頑丈な物で叩こうか、なんて思っていると、仮面をつけた青年が偶然開いていた体育倉庫から出てきた。クロセル・ラインツァートである。彼は手際よく金属製バトンやらテニスコートの網を手にすたこらさっさと立ち去った。
（ゴーレム戦に使うのか？）
　首をかしげながら、クロセルの様子を伺っていた忍。だが彼はややあって体育倉庫なら、なにかいいものがあるかもしれない、と考えてそこへむかった。
（手ごろなハンマーとかあるといいんだが……）
　適当に見て行くと、ちょうどいい所に工具入れがあった。彼はにやり、と笑うとソレをそっと開いた。

　＊　＊　＊

　謎の女性、帳が虚空に浮かんで生徒達の様子を見ている。その側には、硝子のような物に閉じ込められた古文担当教師の永田孝文がいる。孝文に焦った様子は無いものの、このままにしておくわけにはいかないだろう。
　黒曜石のような石でできたゴーレムたちは、動ける者たちの姿を見つけると、足音を響かせながら襲い掛かってきた！

　尾鎌蛇那伊はいつものように呼吸を整えて気を練り、それを全身にめぐらせて戦闘モード。きっ、と鋭い眼差しでゴーレムと向き合う。
（敵の身体が黒曜石なら、硝子に近い特性と強度よね）
　ならば自分の拳でも打撃を重ねれば割れる、と睨んだ蛇那伊はにっこりと笑う。ここは自分の舞台だ、とでも言うように。彼は早速襲い掛かってきたゴーレムの動きを先読みし、最小限の体捌きでかわす。まずは、身体全体を使って戦況を把握する事にした蛇那伊の表情は実に生き生きとしている。
「素手で殴ってどうこうできる相手ではなさそうですね」
　そう呟いたのは身構えつつも周囲に視線をめぐらせる天動記士郎。彼も敵の動き方や攻撃方法、弱点などを探していた。それだけではなくブロックなどゴーレムの破壊に利用できそうなものが近くにないか見ていたのだ。
　丁度いい所にサッカーボールがあり、それが使えるのではないかと睨んだ記士郎はそれとなく拾い……周囲の学生を見た。そして、信頼できる知人を見つけると静かに頷く。
（彼らなら、何か閃くかもしれません）
　なにか力になれないか、と記士郎は戦場全体と彼らの様子を伺っていると、桜庭円が身構えていた。
「こんな所に結界？　それにあの人も気になるなぁ」
　両手で持っているのは、両手持ちようバーベルの片方の錘を抜いたもの。残っているのは５キロほどの物だ。まるで戦鎚のようにそれを構えた円は相手の攻撃範囲ぎりぎりの距離を取り、様子を伺う。その中で目をつけたのは、孤立しているゴーレムだ。
「ちょっとあれでも狙ってみるかな」
　円は獲物を構え、蛇那伊がくすり、と笑う。２人はしなやかに踏み込むと、襲い掛かってくるゴーレムに怯むことなく挑む。
　記士郎は別のゴーレムからの攻撃を交わしつつ、辺りを見渡す。何かがおかしい。勘でしかないが、４体のうち１体だけ、動きが他の物に比べ僅かに遅い気がした。

　そこに出くわした恵御納夏朝は現状を見、内心で嫌な予感を憶えた。
（夏夜ちゃんが、日記に書いていた朱雀族の事件や桜華寮篭城、月華世界と何か関係があるの……？）
　帳が何を考えているのかは解らない。だが、永田先生はみんなの大切な先生だ。助けるために戦わねば、と夏朝は気を引き締める。
「急に永田先生が捕まったり、ゴーレム４体と戦う事になったけど……、何だろコレ」
　ろっこん『ＣＣＣ』を発動させ、お手製粘土細工の１体をゴーレムの頭に乗せた呉井陽太はため息混じりに首をかしげた。なんだか、帳に試されているような気がしたからだ。

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