寝子高七不思議シリーズ：校内キャンプでバッハに会いに行こう！｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：校内キャンプでバッハに会いに行こう！

　ところで疑問が残りませんか？
　まりもが目にした（そして気絶した）白い生首です。
　お話を締めくくる前に、そちらに視点を移してみましょう。
「……ふふふ、自らの手で噂に尾ひれを付けて物語を彩るというのも、なかなか趣深そうですね」
　白い生首はそんなことを言いつつ、夜の校舎を軽やかに歩むのです。
　といっても本当に生首なのではありません。
　彼女はエレノア・エインズワース、もちろん寝子島高校の生徒です。
　ところが、キャンプの参加者ではありません。
　なんと、学園七不思議のネタ提供をするためだけに体を張って、キャンプには一切参加せず、ずっと学校に張り込んでいたのです！
　キャンプのテントをみんなが立てていたりする頃、エレノアは人目を盗んで音楽室に近いトイレの個室にもぐりこみました。少し前までは部活動の生徒もいたりしたので、これはとても簡単にできたのです。
　ここで彼女は変装を開始しました。
　肌の露出がほとんどない黒いドレスを制服の上から身に付け、顔に白粉を使った上で赤絵の具を眼の下に塗り、『血の涙を流している幽霊』の顔を作り上げたのです。
　暗闇で見れば、黒い服装ということもあって生首に見えることは言うまでもありません。
　エレノアは着替えの後、誰にも見られないように音楽室内の掃除用ロッカーに入ると、肝試しの始まりまでの待機を開始しました。
　狭くて苦しい掃除用ロッカーですが、エレノアはすばらしい意志の力でこれにたえ、あまつさえ立ったまま仮眠をとったのです。
　そして深夜、満を持してエレノアはまりもの度肝を抜いたというわけです。
　ただ誤算があったとすれば、それは大半の参加者が集団で歩いていたということです。数を頼みに逆襲されたら、捕まって正体が露呈してしまうかもしれない……その愚は避けたかったので、まりもに強烈な印象を残しただけでよしとすることにしました。
　証言が少ない方が伝説としては尾ひれがつきやすい――そう考えたこともあります。
　そこでエレノアは脱出しました。
　北校舎と体育館を繋ぐ通路から校庭を避けるように大回りしてプールの更衣室に入り、そこで顔のペイントを落とし制服へと着替えたのです。
　ドレスはそのまま、更衣室のロッカーへと入れておき後日回収するものとしました。
　こうして彼女は、洋二たちが音楽室より撤退する頃に、正門から出て何食わぬ顔で帰路についたのでした。
「大変だったけどやる価値はあったわね」
　夜明けの空は苦手なので、そそくさと小走りで立ち去ります。
　当日のキャンプ参加者を調べても、たしかに脅かす側に参加した者はいますが生首を用意した人などいるはずもありません。永遠にこの秘密が露呈することはないでしょう。完全犯罪（？）というわけですね。
　エレノアの努力は実を結びました。
　後日の話ですが、まりもは学校でいかに恐ろしい目にあったか力説し、それが『深夜の校舎に現れる生首』として、新たな寝子高七不思議に加わったのですから。

　というわけで今度こそ、めでたし、めでたし。

　……とはまだ、いかなかったりします。
　ごめんなさい。あと１ページだけ！

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