【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞

●テスト返却：３年生のみなさん

　壬生由貴奈はぼーっとしていた。
　３年５組担任の早川珪先生が教室に入って来ても、試験結果を返却し始めてもぼーっとしていた。
　彼女のテスト期間は、わりと眠りと共にある。
　ぎりぎりまで居眠りしラスト数分で全問解く、というのが由貴奈のお決まりパターンなのだ。
「英語とか音楽なんか、ヒアリングのとこで頭の中からヒーリングミュージック流れてきてたんだよねぇ。おかげでよく眠れたよぉ。まぁ、問題自体はそんなに難しくなかったし寝ながら聞き取れたから、あとは凡ミスに気を付ければ大丈夫だったかなぁ」
　試験のあと、呆れ顔で起してくれたクラスメイトにそう答えたのは、しばらくの間クラスの中で語り草となった。これでほぼ９０点後半という点数を取るのだから恐れ入る。
「いや、でも体育は今回ばかりは居眠りせずに最後まで解いたもんねぇ。ふっふっふ、今度は追試を受けるなんてことには絶対ならないよぉ」
　結果が返ってくる前、由貴奈は苦手な体育についても自信満々だった。
　名を呼ばれたときも、今回はクッキーも控えたから熊先生にも怒られなかったしね、という具合に。
「ふふふー、あれだけ勉強したか……ら……え、それでもこの点数……？」
　結果を受けとり、みるみる表情が消えてゆく。
　赤点ではない。
　ギリギリ、辛うじて。
　が、はっきり言うと３１点――ほかの教科に比べたら驚きの点数だ。
　由貴奈の顔がふたたび冬眠明けのアライグマみたいな寝ぼけまなこに戻ってゆく。
「あー、試験って８教科だったっけ。なんだかすごくよく眠れたテストだったけど今回は大丈夫だねぇ」
「いや壬生さん、ほとんど大丈夫だけど、体育は大丈夫じゃないよ」
　早川先生が言葉を返すと、由貴奈は真顔でのたまった。
「体育？　それ美味しいの？」
　どうやら由貴奈の世界から『体育』は消えたらしい。

◇

　廊下に出たなぎさは校内を眺め見た。
　何を考えているか分からない天吏がいる。
　嬉しそうに何度もガッツポーズをする正也がいる。
　ぼーっと現実逃避ぎみにクッキーをかじる由貴奈がいる。
　この寝子高はほんとうにいろんなひとがいるな、と思う。
　いろんなひとが、ゆるやかに、一つの場所に集っている。
　そんなありさまは居心地がいい、となぎさは改めて思う。
　思って、一歩、歩きはじめる。