【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞

●テスト返却：１年生のみなさん（その４）

　体育科１年１０組。
　体育教師であり陸上部顧問でもある浅井幸太が担任を持つこのクラスは、さすが体育会系というべきか、満点かなとわくわくする生徒より、赤点取って部活停止は勘弁と祈る生徒の方が多い。
「いよいよテスト返却やなー。青物ー、お前どーや？」
　浅沼柳司は青物といきに話しかけた。
　といきは、部活の再開を喜んでいるらしく鼻歌混じりにこう答えた。
「テスト結果？　まー赤点とらなければ親も文句いわないだろうし、特にといきはきにしないにゃ！」
「だよなー」
「……というのが前回までだったんだけど」
「なんだよ、勉強したクチか？」
「まあねー」
　といきはチェシャ猫みたいにニンマリする。頑張って勉強したら、浅井先生に『陸上だけではなく勉強も出来るんだな』って褒められちゃったりして！　なんて妄想が膨らんで、わりと頑張ったほうなのだ。
　まあ、妄想を膨らませ過ぎて無為に過ごしてしまった時間もあり、そこは時間がもったいなかった！　という後悔もあるので、ひとくちによかった、とばかりも言えないのだが。
「うー、先生からなんていわれるかこわい！　こわいにゃ！」
「あんまり心配すんな。青物なら、たぶん大丈夫やろ。俺もなー。最近今まで以上に勉強してるし、ちょっとはテストの成績あがっててほしいわ」
　そんなふうにおしゃべりをしていると、先生が教室に入って来た。

「青物ー」
　あ、から始まるといきは、はじめの方に名前を呼ばれる。
　ドキドキしながら貰いに行き、ちらっと確認して顔を綻ばせ、浅井先生を見る。
「浅井センセ、といき今回凄くない？」
「すごいな」
「あーっ、センセ。感情籠ってない！　うう、先生は陸上部のといきしか評価してくれないのかにゃ……」
　泣き真似をするといきに、浅井先生はおろおろ慌てて話しかける。
「籠ってる。感情、めちゃくちゃ籠ってるって。すごい、頑張ったじゃないか。俺の期待通りだよ」
「ほんと？」
　といきはニカッと笑って顔をあげる。
「なんだ泣き真似か。勘弁してくれよなー」
　頭を掻き掻き、浅井先生は女子高生の扱いにはほとほと困った、という顔をする。
　といきはシャキッと敬礼し、
「てなわけで先生！　青物といきは学生から陸上部員に戻ります！」
　と告げた。先生も調子を取り戻したようで、ぐっと拳でといきの肩を押す。
「おう。また走ろう」
「冬も走る！　筋トレ！　ばっちし鍛えるから付き合ってね～！　目指せ箱根駅伝！」
「泣きごとは聞かないからな、挫けず頑張れよ」

　苗字があさぬまな柳司も、といきから間をおかず先生に呼ばれる。
「先生、これ……」
「ん？」
「俺……成績上がってるよな……？　だって、っていうか赤点ないし！？」
　結果を二度見、三度見して、それから先生の顔を見る。
「入学して最初のテスト確か赤点だらけやったのに、なくなってる！！　赤点無いの、中学以降初めてかもしれん……っていうか間違いなく初めてや……！！」
「頑張ったな」
　浅井先生が手を差し出してきた。柳司はその手をぎゅっと握った。
　それは固い握手。柳司の健闘を讃える握手だ。
「補習も再試験も受けんでええんか……！　おお、なんかめちゃくちゃ嬉しい！！」
　柳司は飛びあがらんばかりだった。
　席に戻るにもスキップしそうな勢いだ。
「油断すんなよー」
　浅井先生が柳司の背中に声を掛ける。
「あ、せやな。冷静に考えたらあれやんな。もっと勉強せんとアカンよな。赤点じゃないって言っても、この点数じゃあな……」
「あほう。今日は自分の成長を喜べ。それがなかったら次へ繋がらないぞ！」
　浅井先生の言葉で、柳司は、今日が落ち込む日じゃないことがわかった。
「そか。そやな。俺頑張ったわ。だから今日は自分を褒める。そんで明日からまた頑張るわ。警官なるには試験もあるし、もっといい成績獲れるようにならんとな！」