【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？冬寒波、四日間の死線＜物語編＞

●テスト返却：１年生のみなさん（その２）

　ホームルームを待つ間、１年３組と４組の間の廊下で、プリティヴィ・プラサードと虚金俊通が会話を交わしている。以前からの親しい友人、というわけではない。たまたま廊下で一緒になり、話してみたら面白かったのだ。プリティヴィの日本語は堪能だった。

「テストの時の記憶が全部イマイチではっきりしないね……この狂った寒さが良くないね」
　プリティヴィはインド人のお嬢様である。
　そのことは、俊通にも一目でわかった。なにしろ制服とサリーを重ね着しているのである。
　それだけではない。亜熱帯出身の彼女はテストの時、「おかしいよ……この気温まるでチョモランマか北極や南極だよ日本おかしいよ」と毎日雪だるまみたいに着ぶくれて話題になっていた。噂によると、テスト以外の時間はお風呂か温水プールにどっぷり浸かっているとかなんとか。
　そのプリティヴィ曰く。
「喋る日本語は大丈夫よ。でも書く日本語は得意じゃない。うっかりヒンディーで書いたかもしれない」
「ヒンディーか。それはさすがに先生も読めないだろうね」
「俊通は？」
「どうかな。……っていうか、俺、プログラマのバイトやってて出席足りてなくてさ。他の教科はギリギリセーフだったんだが、英語だけはギリギリアウトだったんだよなぁ……」
「それは大変ね。じゃあ試験意味ない？」
「や、島岡先生に相談したら、テストの点数次第で補習無しって温情掛けて貰ったんだけど……だからってなんで満点以外補習なんだよ！」
　俊通が急に吼えたのでプリティヴィはびくっと首を竦めた。
　どうやら彼だけは、先生との間で、満点以外赤点という取り決めになっているようだ。
　俊通はプリティヴィが目を丸くしているのに気づき、語気を弱める。
「ま、まぁ英語の仕様書とかマニュアルを読める程度だから筆記は自信あるんだが……なんだよ！　あのヒヤリングは！　やけにリズミカルな音まで流れてくるし！　英会話でケンカできる俺でもヤバかったぞ！」
　はぁっと深くため息をつく。
「もうダメかもわからんね……再確認する時間も無かった」

　そのとき、３組の白沢絢子先生と４組の久保田美和先生が並んで向こうからやってきた。
「ほらほら、教室に入ってー」
　生徒たちは蜘蛛の子を散らすように自分のクラスに戻ってゆく。
「グッドラック、俊通」
　プリティヴィはそういって教室に戻った。
　彼女が教室に入る時、ドアが自動で開いた気もしたが……気のせいだったろうか。

◇

「はーい、次。虚金くん」
　白沢先生に名を呼ばれ、俊通は前に進み出る。
「島岡先生に事情は聞いてるわよ。いい点なのに、惜しかったわね」
　ああ簡単なスペルミス。
　俊通はがくり肩を落とす。
　この一文字のために、補習に出なければいけないとは！

　一方、４組のプリティヴィは。
　困り顔の久保田先生から苦情を受けていた。
「他の先生みんなから言われたんだけど……おねがい、ヒンディーと英語と日本語を混ぜて書くのはやめて！」
　たぶん正答なのだろうが、ヒンディーや英語で書いたがために、バツを貰った箇所のなんと多いことか。数学と英語は満点だったものの、それ以外はひどいことになっている。とくに久保田先生の国語に至っては、次の中から正しい答えに○を付けましょう、という問題以外は全部ヒンディーという有様で、先生の嘆きは海のように深い。
　プリティヴィは思わず呟く。
「なんてこと……そもそも教師は全てヒンディー使えるようになるべきね……。先生が結婚できないのもヒンディー使えないか……ら……はっ！？　私何も言ってないよ！」
　プリティヴィは慌てて口を噤んだが、先生は泣いた。
「テストは相手に答えが伝わらなかったらダメだから！　先生が読めなかったのは全部バツですーううう」
「泣かないで先生、そうインドに日本のお嫁さん探してるお金持ちの良い人いるよ！」
　パンがなければケーキを食べればいいじゃない。
　ちょっと違うけど方向性はそっちな発言に、よよよ、と崩れる久保田先生。
「うっ、うっ、もうやだ、いい男に癒されたい……！」