『ロイヤル塩焼きそばパン』はドコへ消えた？｜リアクション

『ロイヤル塩焼きそばパン』はドコへ消えた？

「こっちの方ですの？」
　左右は持っていた杖で家庭科準備室の戸を打ち、己のろっこん『Close to you』を発動させて開く。と、丁度莉鳥と雅樹もまた廊下から家庭科準備室に入ったところだった。
　小麦粉は『こむぎこ、こむぎこ』と鳴きながら宙に浮いている。その様子に全員がちょっと拍子抜けしてしまった。正し、莉鳥は観察していただけなのでカウントされない。
　そんな中、彼女を除き最初に我に返ったのは雅樹である。
「それじゃあ、早速……っと？！」
「怖がる」
　飛び掛ろうとした雅樹を止めた莉鳥は、静かに呟いた。
「ほら、震えている」
「えっ……？」
　莉鳥の言葉に陽毬が声を上げる。彼女はまじまじと宙に浮く小麦粉の袋を見つめ……確かに震えているのを確認した。
「そっか、怖かったんだね……でも、なんでだろう？」
「もしかして、単純に恥ずかしかっただけかもしれないよ？」
　信彦がそういって小麦粉の袋に笑いかけると、僅かにこくん、と頷いたように見えた。信彦は「そんな君もかわいいよ」と言って微笑んでいる。これで目の前に居るのが小麦粉の袋ではなく、色白な女の子ならばバラの花の一輪でもあげていただろう。
「じゃあ、どうしたら材料として来てくれるのかな？」
　陽毬がどうしようか、と悩みながら問うと、お腹の虫がきゅぅ、と愛らしく鳴く。顔を真っ赤にした陽毬の様子に莉鳥たちは苦笑したり微笑んだりしたが、左右はそっと杖で小麦粉の袋をつついた。己のろっこんで引き寄せようと言うのだ。
　小麦粉の袋はゆっくりと左右の元に近寄り、ぽすん、と音を立てて彼女の腕に収まった。それにほっ、とする一同。その次の瞬間、パン作りに必要な卵と牛乳、イースト菌などの材料が一瞬にして出現した。
『こむぎこ♪』
　まるで「やさしくしてくれてありがとう」とでも言うように、小麦粉の袋から声がする。莉鳥は優しい眼差しで袋を撫で、小さく微笑んだ。
「ありがとう」

　小麦粉を含めたパンの材料ゲットに、５人は「とりあえずパンは確保できた」と安堵していた。
「大収穫ですわね！」
「それじゃあ、５人で分担して運ぶとするか」
　左右は杖を握り締めて喜び、雅樹がそういって小麦粉の袋を抱えようとした。だが、小麦粉はするっ、と逃げる。そして、『こむぎこ♪』と鳴いて莉鳥の腕に飛び込んだ。
「私、がいいの？」
　莉鳥の問いかけに小麦粉の袋が頷く。
「それじゃ、私はこっちの牛乳を！」
「わたしくはイースト菌の袋と卵を運びますわ」
　陽毬と左右が手を伸ばそうとしたが、信彦が歯をきらり、と光らせて止める。そして雅樹の服を引っ張った。
「お、おい！」
「コレぐらい、俺たちで持っていくよ！　幸い、あまり多くないみたいだし」
　そう言って荷物を持とうとすると、がらり、と準備室の戸が開いた。材料を運ぼうと台車を押していた八神修である。
「小麦粉確保できたようだね。台車に乗せていくといいよ」
「ありがとう～！」
　陽毬が礼を述べ、とりあえず皆で一旦学食へ戻ることにした一同なのであった。

　その直前。陽毬はなんとなく冷蔵庫が気になった。
「なんか豚肉って冷暗所にいるっぽいね！　やっぱり冷蔵庫なんじゃないかな？」
「あぁ、それはいえるな……。念のために覗くか」
　彼女の言葉に修も同意。２人は左右たちに待ってもらい、冷蔵庫をあけた。すると……、豚肉のパックがそこにあった。
「確か、鸚鵡返ししてくるんだっけ？」
『確か、鸚鵡返ししてくるんだっけ？』
　陽毬の言葉に即座に反応する豚肉。修は「それだな」と頷いて無造作に手を伸ばす。こうして、豚肉もすぐに確保されたのだった。

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