シネマ☆トリップ！｜リアクション

シネマ☆トリップ！

●剣姫☆トリップ！

　高校三年生の冬といえば受験勉強真っ盛りで追い込み期間……なのだが、今年の夏にＡＯ受験で合格した仙藤紫にとっては時間に余裕のある悠々自適な日々だ。
　そして、リバイバル映画が一本ワンコインで見れるとなれば、高校生の懐事情を鑑みても紫が足を運ぶのは自然な流れだった。

「んー、ホラーも気分じゃないし……恋愛映画は……パスだわ」

　ホラー映画は先日ブルーレイで見たばかりだ。夏休みに経験した失恋は、まだ忘れられそうにない。ほんの少しだけその横顔に翳りがさしたが、すぐに消えてリバイバル映画のラインナップの品定めへと戻る。

「ソード・プリンセス……うん、これにしようかな」

　そう言って彼女が選んだのは、８０年代に制作されたヒロイック・ファンタジーだ。悪の帝国に滅ぼされた王国の王女リリアが女剣士となって、仲間とともに帝国を倒す為の冒険に出るという、気楽に見れるベタな作品だった。

「で、なんで私がその主役の女剣士になっちゃってるの……？」

　細かいことよりも、紫が気にしたのはその格好だ。なんとも露出度の高いその衣装、80年代のヒロイックファンタジーといえば王道中の王道……そう、ビキニアーマーというやつだ。水着のビキニと酷似したもので、布地の部分が金属でできたビキニと言えばいいだろうか。
　紫は水泳部で、人前で水着姿になることに抵抗はなかったが、それとこれとは話が別だ。いくら美しい装飾が施されていようとも、

「どうせなら、仲間の露出度低めな女魔術師の方がよかったな……」

　なんて思ってしまうのも仕方ないのであった。
　しかしそれはそれ、これはこれ、だ。なんだかわからないけれど、トリップしてしまったからにはしょうがない、と紫は考える。どうせなら異世界ファンタジーを堪能してしまおう、現実世界では叶わない大暴れをして王国を救うのも楽しいかもしれない。
　そこまで考えた時であった。

「姫様！　あそこが魔王の居城です！」

　仲間の従者でもある少年が、紫に向かって声を掛けてきたのだ。
　魔王の居城、という言葉はすんなりと紫の中に入ってきて、紫は鷹揚に頷いた。どうもこの映画の姫であり女騎士でもあるヒロインの記憶と剣技、その全てを覚えているようだった。
　ベタな黒い城へ乗り込めば、黒い鎧を纏った人ではないもの……魔王の魔力によって生み出された黒騎士の群れが紫たちへと襲い掛かる。

「来なさい！」

　紫はそう叫ぶと、腰に下げていた剣を手にして構える。現実とは違いその身体能力は想像よりも高く、黒騎士の攻撃をひらりとかわしては急所である赤い宝石を砕いていく。仲間たちも剣や魔法で紫の援護をしてくれている為、大した手間も取らずに魔王の元へと辿り着くことができた。

「来たか、王女リリアよ！　今からでも遅くはないぞ、我が妃となるのであればその命だけは助けてやろう！」
「冗談じゃないわ、死んだってお断りよ！」

　ベタなやり取りだわ、と思いながらも紫は魔王に向かって啖呵を切ってみせる。そこからは怒涛の展開だった。
　魔王の側近と戦って勝てば、その側近は魔王に操られていたリリアの実の兄だったり。記憶を取り戻した兄と共に魔王を倒せば、その魔王は影武者で本物は別の場所にいるとかだったり。

「これ、続編があったのね……」

　エンディングテーマが流れる中、リリア……もとい紫は、ぽつりと呟いた。

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