サンタクロースの贈り物～サタン・クロース！～｜リアクション

サンタクロースの贈り物～サタン・クロース！～

「おう、いらっしゃい。安くしとくぜ？」
　武雪の女王の城に現れた亨は、流達のパーティーに遭遇し、ニヤリと笑う。
　一緒に亨と来ていた陽毬は、今日は荷物持ち兼護衛だったりする。
　今も丁度、その双剣で敵を一匹屠った所だ。
　陽毬が暗に気づき、ニコニコと手を振ると、暗がちょっとだけ照れくさそうにふんっと鼻を鳴らす。
「サタンクロースファンタジーはやりこんであるけど、こんな所で死の商人に会えたか？」
　流は自身のゲームの記憶を思い浮かべる。
　何週も繰り返したが、武雪の女王の城で死の商人に遭遇した覚えがなかった。
　まぁ、女神が召喚されたり、レベリングの途中で流達も召喚されたりしたのだから、リアルのゲームとは大分進み方が違うわけだが。
「そういいなさんな。『死の商人』たぁ、言いたいだけ言うがいいさ。だがな。その死に需要を創った側が言う事じゃねェさ、なぁ？」
「そうですよ、この城のレベルにぴったりの装備をお持ちしたんですから」
　旅行鞄を広げ、陽毬も亨の言葉に頷く。
「いや、否定しているわけじゃない。途中の街とモンスタードロップである程度の装備は揃ったんだ。でも、この城の敵は補助魔法がほぼ全滅でね。正直、品揃えに期待したいところだ」
　流の言葉にタルトも首をぶんぶんと縦に振り、陽毬の旅行鞄の中を覗き込む。
「僕の装備も売ってるかな？　魅了の歌声も効きづらくて、敵が怖いんだもん」
「吟遊詩人さんですよね。もちろん揃っていますよ。歌声が最大の武器ですが、こちらの竪琴と弓が一体化したハープボウなどはどうでしょう」
　陽毬が旅行鞄の奥にしまわれていた武器を取り出し、タルトに手渡す。
「わぁ、可愛い！　弓の部分にお花とリボンが彫られてるとか、魔法少女風味なの。それに軽くて持ちやすい……あっ、これ、矢はどうするんだろ。矢は使い捨てなの？」
「そんな阿漕な商売はしねぇな。ほら、この手引書を付けてやるよ。お前のレベルなら歌声で簡単に矢を作り出せるはずだ」
　デザインは気に入ったものの、矢がなくて躊躇うタルトに、亨が手引書を投げわたす。
　ぱしっとキャッチしたタルトは、早速手引書をチェック。
　どうやら本当に簡単だったようで、タルトが歌うとぽわんと淡く輝く矢が出現した。
　試しにタルトが一発放ってみても、矢は消えない。
「一定時間経過か、一戦闘終了後に矢は消滅しますよ」
「これ、買いたいんだよ。僕で買えるのかな」
　くりくりの茶色い瞳を輝かせて、タルトはがま口財布を握り締める。
「ふむ」
「そんなわけで、誰であれ商品を売ってもらえるのは助かるんだよね。俺達が取引できるものを持っていればの話になるけど」
「金はここに、金の成る木はそこに。お前の持ってるソレだ」
　亨は流の武器を指差す。
「これがか？　武器は街のＮＰＣから買っただけのものだが？」
　モンスタードロップ品はそれなりに値打ちがありそうだが、量産品のＮＰＣ売りに価値があるとは到底思えない。
「意外か？　なら言葉を一つ覚えておくんだ、『全ての物に値打ちはある』ってな」
　亨はにやりと笑う。　
「この武器はお前達にとっては使い古した弱装備かも知れねぇが、熟練度ってやつが溜まってる。ましてや人間が使っていたモノだ。こいつを魔族に売りつけりゃ、高い価値がつくってもんさ」
「魔族にって、お前何考えてるんだよ」
「なぁに、言っただろう？　すべての物には値打ちがあるんだよ。そしてそれは、その価値をわかっているものにのみ、富をもたらすのさ」
　亨は言の刃に乗せて死の蜜を垂らす。
　目には見えないそれは、聞くものの正義感を、価値観を、鈍らせた。
「買って行くだろう？　魔族の装備だのなんだの、そんなものは魔王を倒すという大義名分の前には無意味だ。さぁ、一緒に金の話をしようか」
「お買い上げ、ありがとうございます」
　亨と陽毬の売り込みに、流達は装備の強化に成功した。　