サンタクロースの贈り物～とても良く視える一日～｜リアクション

サンタクロースの贈り物～とても良く視える一日～

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「あなたは……」
　架神十字は、絶句した。
　心療内科に訪れる患者には、多種多様の症状がある。
　小説やドラマによく登場する多重人格障害や過去の心的トラウマなどはよく耳にする言葉だろう。
　最近だと、鬱病がもっともポピュラーだろうか。
　だが、目の前の少女を一目見て、十字は思わず椅子から立ち上がりかけた。
　似ていたのだ。
　幼馴染の少女に。
　よく見ればもちろん違うのだが、印象がどこか似ていた。
　母親に支えてもらわねば一人で歩けぬほどに病に侵された少女は、それでも精一杯、十字に笑顔を向けて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
（意識はしっかりとしているようですね。ですが、この状態でなぜ、心療内科に……？）
　心的要因でうまく歩けなくなったり、実生活が困難なほどに身体能力が疲弊してしまうことはある。
　だが目の前の少女は、明らかに違う。
　長年、患者と向き合ってきた十字には、判るのだ。
　診察室の椅子には背もたれがない。
　ふらつく少女を脇のベットに促し、そこに座らせる。
　カルテを見ると、尿検査の結果を看護婦が持ってきた。
　その瞬間、少女がびくっと身体をこわばらせる。
「どうかしましたか？」
　少女の瞳は十字を見ていなかった。
　真っ直ぐに看護婦を見て怯えている。
　看護婦はすぐに状況を把握し、その場を立ち去った。
　少女の母親に目で促す。
「あの看護婦が、何か失礼をしましたか？」
　ありえない事ではあるが、尋ねる。
　彼女はこの院内でも笑顔と優しさに定評のある看護婦だが。
　少女の母親は怯えた少女を抱きしめながら首を振る。

　――以前、別の病院で……詐称だと……――

　涙ぐむ少女の母親を見て、十字は頷いた。
　今までの分類に当てはまらない病気は、心因性や詐病と診断されやすいのだ。
　詐病と思えれば、冷たい対応をする看護婦もいるのだろう。　
　似た雰囲気の看護婦を見て、怯えてしまうのも仕方がないのかもしれない。
　俯く少女に、十字は幼馴染であり、妻であった彼女を脳裏に思い浮かべる。
　彼女は、幸せだったろうか？
　治ることのない病と、儚い命と。
　短すぎた彼女の一生は、幸せだったろうか？　
　目の前の少女が口を開いた――「わたしは、治りますか」と。
　十字は努めて冷静に自分を保つことを心がけた。
　彼女の病気は精神的なものではない。
　つまり、十字は直接彼女を救うことは出来ない。
　妻を、救うことが出来なかったように。
　……。
　いや。
　違う。
　十字は軽く頭を振る。
（妻は、彼女は、僕という家族を愛してくれていましたね）
　少女の母親を見る。
　少女を深く愛していることが判る母親を。
「ずっと、お辛かったでしょう。他の病院で何と言われたかわかりません。ですが僕の診たところ、あなたの症状は心因性でもましてや詐病でもありません。薬の副作用の可能性がありますから、然るべき病院で看て貰えばきっと良くなります。信頼できる本土の病院に紹介状を書かせて頂ます」
（すぐに治ると嘘をつくのは簡単です。ですが、愛は、それ以上に強いのです）
　彼女の幸せを願ってやまない母親が、長い闘病生活を送る事になる彼女の支えになり続けるだろう。
　十字はそう信じて、診察を終えた。

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