＜月華＞風花は、白く冷たき針｜リアクション

＜月華＞風花は、白く冷たき針

（刹弦以外は、操られた人達だけ、かな。後は捕まっちゃった御剣くんたちと、さっき見た後木さんだけ？）
　日暮ねむるは無表情を装いながらも、宮にいる人間を把握していた。警戒されないうちに頭を整理させようと、彼は壁にもたれて木の上にいる機械仕掛けの鳥をみるふりをして考える。
（黒幕さんは、雪を降らす能力で、条件が成立すると対象の感情を奪えるっぽいね。雪を見た者全員が思考停止した訳じゃないとなると、ある程度目標を設定して発動できる……？）
　ねむるはうとうとし始めた眼のまま、このままじゃ埒が明かないな……、と思っていると見慣れた少年が側に居た。寝癖のついた髪の少年は、混沌を好む骨削瓢であった。
　瓢はぼんやりした顔のまま硝子の破片で遊んでいる。その姿を見たねむるは僅かに息を飲んだ。
（瓢くんも、操られてるの……？）
　確かに瓢は愉快犯的な所がある。だが、今回は果たしてそうだろうか？　ねむるに気づかない瓢は、硝子の破片を積み重ねて遊び続ける。
　ねむるは、小さな声で「またね」と言ってその場を後にした。

　次にねむるが見たのは、書斎のような場所で、椿美咲紀が書物を読んでいる姿だった。だが、表情を変えず坦々と頁を捲る姿にねむるは違和感を覚えていた。
（普段なら、もっところころ表情が変わっているような……）
　巫女服のような物を纏い、艶やかな黒髪を伸ばしたまま背に流した美咲紀はねむるに気づくことなく本を読み続ける。僅かに見えたうなじのラインが、彼女を普段より大人びたように見せていた。
「一体どんな本を読んでいるのかな？」
　興味に狩られたねむるが一冊手に取ると、雲の国の歴史だろう事が書かれている。真顔でそれらに目を通す美咲紀の姿に、ねむるの胸が僅かに軋んだ。
　その奥の部屋では、桜庭円の姿があった。舞う雪を見ているうちにここに来た彼女は、黒と赤の着物を纏ったまま寝転がっていた。僅かに見える足の細さと白さが、なんともいえない艶かしさをかもし出していて、少しばかりどきっ、としてしまった。
（部長も来ていたのか……）
　ねむるがそっと後ろを通ったのも気づかず、円はぼんやりと庭をみる。だが、宝石の華も、機械仕掛けの鳥が歌う歌も、彼女には眩しくて、煩わしくて……ただそれだけだった。だのに、何故かここを離れる気配は無い。
　胸の辺りから暖かさを覚え、消えていく。僅かに見開き、円の唇がそっと紡ぐ。

　――ボクは、生きているのか、それとも、死んでいるのか？

　それすらも、今の彼女にはわからなかった。視界に広がる価値の無い灰色の世界を見て、胸の奥から凍えるような気がした。気づいた時、彼女は着物を正し、羽織って身を起こしていた。

　――僕は何故ここにいるのだろう？

　サキリ・デイジーカッターは、何故か思い出せず座り込んでいた。だが、彼にはここがとても快適でよいところに思えていた。まるで憑き物が落ちた様な気分で今までのことが、どうでも良くなってしまうほどに。
　ゆっくりとあたりを見渡し、棚を見ると様々な急須やポット、茶葉がある。それらの中から茶葉を選び、こくっ、と頷く。
（そうだ、刹弦様にお茶をお淹れしよう）
　先ほどまで考えていた事を掻き消し、サキリは美しい所作でお茶を入れ始めた。中華風の衣装を纏った彼は何もかもを悟ったような、淡い笑みを浮かべ、ロボットのように茶菓子を選別し、ぼんやりと仕度を整える。

　――僕は……。

　サキリが茶器を手に取ったその時、静寂が破られた。

（んー、予想以上にやっかいだナ）
　庭からあちこち見回っていた武道は、物静かな囚われ人たちの姿に息を飲みながらも、気合を入れる。全ては、彼らの心を揺り動かす為。他のメンバーの行動をやりやすくする為である。
「レディースエンドジェントルマン☆」
　陽気な声が、静寂を破る。ばっ、と武道は白い布を取り払い、見えない道化の仮面を被る。
「呼ばれなくても俺参上！　俺に触れると麻痺するぜぃっ！」
　武道の声が、空しく空間に響く。だが、確かに人々の視線は武道に注がれている。
（うん、手ごたえはある！　少しでも、感情を揺り動かせれば……！）
　武道がどう動こうか考えていた時、一陣の風が吹いた。ソコに現れたのは白い中華風の衣を纏った少年、サキリだった。彼は自然と双剣を手に武道へと振り上げる。
「うわぁ？！　まってまって俺だよオ・レ！　ブドーちゃんだってば！」
　サキリは武道へともう一閃双剣を振るう。だが、同時に感じていた。

このページにイラストを設定する

＜月華＞風花は、白く冷たき針

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧