＜月華＞風花は、白く冷たき針｜リアクション

＜月華＞風花は、白く冷たき針

＊　＊　＊　＊　＊

（そうなのだ。刹弦、暴走しちゃったのだ。あれ、なんかこう……張りつめていた物がぱーん、って弾けとんだような感じだったのだ）
　あの時、刹弦は己の矛盾を受け入れた。己の全てを見透かされた。だが、そこへ狂気めいた殺意が突き刺さり、彼の何かを一気に振り切らせてしまった。
（もしかして、真央ちゃん色々やっちゃったのだ……？）
　頭を抱えたその時、真央の前に刹弦が現れた。だが、その眼には、狂気と怒りが混じっている。同時に、別の誰かの眼差しも混じっているようだった。
「あぁ、マオといったか。ふふふ、実にいい怒りだ。懐かしい感情だ。くくっ、呪皇様もきっと、お喜びになるだろう」
「じゅ、呪皇様？　真央ちゃん、どうなっちゃうのだ？」
　刹弦の言葉に訳がわからない、という顔になる真央。刹弦は真央の頭をなでながら、ゆっくり笑う。
「我が美しき贄姫。糧となり我らが感情を満たしておくれ」
　そっと頬をなで、顎へと指を下ろし、くいっ、と上げて視線を合わせる。真央は得体の知れぬ恐怖に、僅かに身を強張らせる。
「やめるのだっ！　『にゃにゃにゃがおーっ！』　がおー、あの男の顔にみだれひっかきなのだ！」
　どうにか勇気を振り絞り、ろっこんを発動させようと手を丸め叫ぶ。とたんにもっふりとした三毛猫が出現し刹弦を引っ掻こうとした。
「ふふ、血気盛んな姫君だ」
　と呟いて、ふわり、と吹雪へと変化して姿をくらませる。がおーはいつになく険しい表情の真央を見上げ、心配そうに一声鳴いた。
　傍らを見ると、同じように浚われたのだろう、美咲紀、夏朝、円、ねむる、瓢がふわふわな寝台の上に乗せられている。彼らはまだ目覚めていないらしい。
（うぅ、困った事になったのだ……）
　真央は頭をかかえ事の重大さにため息を吐いた。

　――雲の国・蒼宮

　白木と硝子の宮は、雪煙となって消えた。遥斗たちによって避難していた月華世界の住人たちも町に戻った。だが、一部の寝子島の人間は刹弦によって連れさらわれたままだ。
「……影の魔物としての力が、暴走したようですね。影の貴人としての理性が、なにかで切れてしまったのでしょう」
　藍紗の言葉に、宮に戻った全員が言葉を失った。
　あの時、修は僅かな手ごたえを感じていた。もしかしたら、刹弦と対話ができるかもしれない、と。彼ら影の貴人を救いたいと思っている修は、ふかい溜息を吐きながら、囚われた仲間達の無事を祈る。
「色々不透明な部分もあるな。……刹弦が感情にこだわる何かが、ある筈だ」
　武道は眼鏡をかけなおし、静かに言う。彼は偶然夏夜からはがれたシールが張り付き、彼女のろっこんによって体が重くなっていた。故に吸い込まれなかったようだ。
「刹弦と、もう一度交渉しましょう。……寝子島の住人であるあなた方に、迷惑はかけられません」
　藍紗の言葉に、全員が嫌な予感を覚える。次の瞬間、彼女は静かにこう言った。
「先ほど、各種族の王族が眠る場所『冥晶宮』に囚われた人々がいる、と神託がありました。私は、『贄姫（にえひめ）』として、冥晶宮へ参ります」
　藍紗は、毅然とした表情で、静かに言い切った。

　――贄姫。
　その昔、月華世界では神や祖霊が怒り狂い、災いを齎した際に行っていたとされる儀式がある。
　それは、王族など高貴な血を引く娘を生贄に捧げ、華やかな行列で神殿や霊廟まで送っていくという物である。
　高貴な娘を差し出す故に、彼女達は『贄姫』と呼ばれ、人々は祈りと願いを託していた。

　藍紗曰く、今この国の王族で『贄姫』なれるのは彼女以外にいないという。王ならば弟や従兄弟などでも務まるが、こればかりは自分の責任でもあるから、と静かに目を伏せて言った。武道たちは、誰も何もいえなかった。

　刹弦は怒りから暴走し、寝子島の住人達をつれていってしまった。残された者たちは、いかにして彼らを助けるのだろうか？
　そして、冥晶宮にいる者たちは、何を見てしまうのだろうか？

　（次回に続く）

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あとがき

担当マスター：菊華伴
ファンレターはマスターページから！

菊華です。
まずは、新田　亮さん。シナリオガイドに出演して頂きましてありがとうございます。
そして、参加して下さった皆さまにも心から感謝いたします。

ここから先は、リアクションを読まれた方のみご覧下さい。

（以下、ネタバレ多少あり）

結果：異常発生による判定延期
続編：捧げられた姫（仮題）

まず、今回は刹弦から囚われた面々を助け出せば概ね『成功』、刹弦を退散させれば『大成功』となる予定でした。
また、刹弦の説得に関しては今回は「聞く耳を持たないが、次回へのフラグになる」予定でした。

が、しかし。

・高野先生を思うがあまり暴走した
・刹弦の弱点を探した
・刹弦を煽った

というアクションのが積み重なりまして、刹弦の暴走に繋がりました。

但しこの情報が後木　真央さんと日暮　ねむるさんの視点（及びPL視点）で落ちました。

呪皇が世界にかけた呪いですが、『失恋を自覚した瞬間』や『愛する人が死亡した姿を見た（ないし死んだと知った）』瞬間からじわじわと発動します。そして後に死亡→影の魔物化となるのです。

これを如何にしてPC情報に落とせるとちょっといいかもしれません。

次回はお祭りシナのつもりでしたが前倒しで『対呪皇』に向けたシナリオへと進みます。
刹弦によって浚われた方は個別コメントでどんな状態かを書いております。確認してください。

浚われなかった皆さんは軽度の傷なら次回は全快しています。
それ以上だと一段階重傷度が減るぐらいです。

ともかく、お疲れさまでした。
続きますが、その後の行動は皆さま次第です。

それでは、縁がありましたらよろしくお願いします。

追伸
囚われた皆さんも、他のシナリオは参加する事が可能ですのでご安心を。

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