＜月華＞風花は、白く冷たき針｜リアクション

＜月華＞風花は、白く冷たき針

破：役者は皆、白木と硝子の宮に集う

　志波武道、八神修、優木遥斗、夏神零、恵御納夏朝（中身：夏夜）の５人は、宮の中への潜入手段を考えなくてはならなかった。
「目立たないようにしなくちゃいけないよね」
　夏夜の提案で雪との接触を防ぐべくビニールを被り、その上から白い布を被って雪に紛れる。それと同時に、遥斗が手にした竹刀をしっかりと握り締めた。
（近づくと、門番のような人形が出るようだな。他もそうなのだろうか？）
　とりあえず、遥斗は亮たちが入った場所とは真逆の庭の一部へと回っていた。そこで思いっきり竹刀を振り下ろすと、ろっこん『風の籠手』が発動。一瞬だけ強い風が吹きぬけ、雪を舞い上がらせた！
「今じゃ！」
　零が号令をかけ、全員が潜入する。一瞬現れた門番人形はどうにか誤魔化す事ができ、全員が庭へと滑り込む。
「さーて、俺は陽動してくるか・な？」
　道化らしく、ネ☆　とウインクする武道だが、その内心は怒りで燃えている。夏夜も同じらしく、厳しい表情を浮かべている。元々感情の起伏があまりないらしい遥斗も、雰囲気から静かに怒っている事が解るだろう。
「こちらは救助に向かうのじゃ。武道殿、ご武運を」
「皆を助け出そう。絶対に」
　修がしっかりとした口調でいい、武道は早速行動を開始する。零たちもまた散らばって救助へ向かう中、修は１人その場に留まる。
（……俺としては、影の貴人たちも助けたいのだがな。くっ、美咲紀の能天気な声がないと、違和感が……）
　普段、身近に居る友達がいない。その事が、僅かに修の調子を狂わせているようだった。修は「らしくない」と呟きながらその場を漸く動くのだった。

　――宮内部。

　すがすがしい気持ちになるような、いい匂いの香が焚かれた宮の中。そこに、種族も年齢も様々な男女が集められていた。
　皆、美しく着飾ってはいるものの、表情はない。彼らは皆刹弦の雪によって心を凍らされていたのだ。
　その中には高野有紀を初めとする寝子島の住人も混じっていた。

（全く……身動きが取れないわね）
　そう、内心で呟いたのは仙藤紫。彼女は自宅の窓から雪を見ていたのだが、目が痛くなった後、目を閉じたまま意識を失った。そして、現在に至る。
　古代中華の宮廷とも、古代日本の屋敷ともいえそうな内装。その場に相応しい衣装の人々。その中に、紫も居る。若草色のチャイナドレスの上に絹練色の単っぽい物を羽織った紫はふと、よく世話になっている先生と歴史物のコスプレをしている気分になった。
　だが、違うのだ。奇妙な空間に閉じ込められた彼女は、奇妙なまでに冷静だった。いや、冷静すぎた。喜怒哀楽、全ての感情がまるで喪失したかのように。そんな自分を、もう１人の紫は、冷静に見つめている。雪によって考察する部分と感情が切り離されてしまった、とでもいうのだろうか？
（何があったというの？　……心細さを感じてもいいはずの空間に、何故……？）
　身体は動かない。ただ、外に咲く水晶の蓮を見つめている。紫は身動きが取れないまま、内心でため息をつく。
（焦ってもどうにもならないわ。ここは大人しくしているしかないわね）
　曇硝子の目で外を見つめる。その白い世界の静寂に、妙に落ち着いていくような気がしながら、彼女は僅かに目を閉じた。
　そこにいると、何も感じない。痛みも、苦しみもない世界。疲れた心の隙間から、流れ込んでくる冷たい感情に、紫の表情は変らなかった。