＜月華＞風花は、白く冷たき針｜リアクション

＜月華＞風花は、白く冷たき針

序：その手が触れるは凍結した扉

　――雲の国・蒼宮

　夏神零は過去に月華の人々の関わった友達から情報を引き継いでいる。その上で青龍族の王・藍紗と話していた。
　丁寧に挨拶をした上で、彼は藍紗から術の特定が出来るような情報を獲られないか、と聞いてみた。
（まずは、奴の術式の根幹からじゃな。……思い当たるのがあるのじゃが……）
　彼が知る歴史や術式を紐解き、辿りついたのは『竦み』の術。一瞬の瞬間的催眠で相手の行動を阻害したり、束縛したりなどにも使われた精神面への攻撃方法だ。
　藍紗は静かに口元を歪ませ、ゆっくりと答える。
「刹弦が使っていた技は、本来我々青龍族の使う水の術をベースにした上で工夫されています。調査に当たっている者からの報告によると、何も無いところから雪が出現していた、と言っていましたから」
　それを聞いた零は、僅かに唸りつつ、頭を働かせる。思いついたのは、雪や氷雪の結晶に術を乱反射させる事で、対象に効率よく術の効果を促すのではないか、と考察する。
　囚われた人々がいるのは、白木と硝子で出来た宮で宝石の花が咲き、雪に覆われた庭もある。その一つ一つが術を反射し、効果を増幅させているのではないだろうか……。
　零は藍紗へと礼を述べ、そこから相殺するべく作戦を考える事にした。

（雪が目ないし体内に入る？　それとも触ったら？　こういう条件なら対処可能だね）
　恵御納夏朝の別人格、『夏夜』は、ふつふつと沸き起こる感情を抑え考える。そうした上で彼女は所持品をチェックし、近くにいた側近に幾つかお願いをした。
　ちらり、と辺りを見ると、零と入れ替わりになったのだろう。御剣刀、尾鎌蛇那伊、新田亮が藍紗と何か話している。
　気になっていると、亮がその場に居る皆に聞こえるよう、「ちょっといいか？」と大きな声で呼びかけた。不思議に思った面々は、亮のほうを見た。
「今から、藍紗様と尾鎌、御剣、俺で刹弦を説得してみようと思うんだ。少しでいい、話し合う時間をくれないかな？」
「説得かぁ……」
　その言葉に、志波武道が懐疑的な眼差しを向ける。眼鏡を正しながら、彼はゆっくりと揃った人たちの顔を見る。
「私達で藍紗様の護衛につくわ。もし、何かあれば連絡手段もあるそうだから、潜入はソレを待ってもいいんじゃない？　ま、アタシは最初から陽動のつもりで訪問するつもりだったけれども」
　丁寧に包装された箱を片手に蛇那伊はウインク１つ。潜入を考えていた武道をはじめ夏夜、優木遥斗、八神修は少し考える。
「俺は、一刻も早く囚われた人々を助けたいと思っているが、皆はどうだ？」
「俺もそう思ってるよ。色々と気がかりだからネ☆」
　遥斗と武道の傍らでは同意権なのか夏夜も頷いている。零は考察の海から浮かび上がるように我に帰り、ふむ、と唸った。
「どこで暮らそうが、家族や仲間がいる。囚われている人々を待ち、無事を案じる人がいる。なるだけ早いほうが良いじゃろう」
　どうやら零も同じらしい。修も、気がかりな事があるらしく心配そうな顔をしている。
　だが、ここで言い争っていても埒が明かない。武道はいつものにこやかスマイルでこう言った。
「とりあえず、説得班からの連絡をまとう。穏便に済むならその方がいいかもしれないし？」
「ただ、くれぐれも気をつけて」
　修の言葉に、亮たち４人は頷いた。そうして、準備を整えた４人を見送りながら夏夜はため息をつく。
（この間に、準備しておけばいいかな？　それにしても……）
　彼女は、この時点で違和感を覚えていた。藍紗の話を聞いていた時、確かにもう１人いたような気がしたのだ。しかし、今この場にいない。
（まさか、１人で行ったんじゃ……）
　夏夜は、嫌な予感がした。

（説得だなんて悠長な事言っているのだ。真央ちゃん、勝手に動いちゃうのだ）
　亮たちの話を聞き、ふん、とそっぽを向いて一人会場を後にしていた後木真央。彼女は１人突入の準備をしていた。
　マジックで塗りつぶしたスキー用ゴーグル、釘バット２本とロープに手袋。寒くないように、と身にまとうのはスキーウェアで、ウエストポーチにはまたたびメイトとミニペットボトル飲料、と重装備である。
（今、助けに行くのだ、有紀ちゃんセンセ。バカは死ななきゃなら治らないのだ。刹弦なんて……）
　真央は緑色の眼に殺意を宿らせ、１人宮を目指し進んでいく。だが、その暗くも熱い、炎のような感情が己の身を焦がすなどとは知らず。

このページにイラストを設定する

＜月華＞風花は、白く冷たき針

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧