今年の汚れは今年のうちに？　久保田家ダンジョンの怪！｜リアクション

今年の汚れは今年のうちに？　久保田家ダンジョンの怪！

＊　＊　＊　＊

　無事に帰ってきた本来の久保田家は、きれいさっぱりと掃除された後だった。どうやらダンジョン化した久保田家で掃除道具を手に戦った事で、現実世界のここも掃除されたらしい。また、原因は不明だが１１人もあらかた綺麗になっていた。
　意識を取り戻した先生方は、ゴミの雪崩で気を失っている間に１１人が掃除をした、と思っているようでとても恐縮していた。

「あれ？」
　華菜子が我に帰ると、そこは元に戻った久保田先生の家だった。しかも、すっごくピカピカ光っているように見える。
　しばらくぼ～っとしていた華菜子だったが、夏朝に肩を叩かれ我に帰る。ゴキブリの幻影を見て気絶した所までは憶えていたが……。
「ね、ねえ！　キングゴミ怪獣はどうなったアル？！」
「倒されたよ。無事にね」
　夏朝がそういって苦笑する。華菜子が不思議そうに首を傾げると、エヴァの声が聞こえる。よくみると、美和が彼女の前で正座していた。
「まったく、教鞭を振るう人がこの体たらくでどうするんですか！」
　厳しいエヴァの声に縮こまる美和。修はそんな彼女を窘めつつも、穏やかに美和へとアドバイス。
「先生、少しでも整理する癖をつけましょう。場当たり的な対処では根本的解決に繋がりませんから」
「ぐすっ、まったくそのとおりよね……」
　相当落ち込んだ美和の様子には胸が痛んでしまう。エヴァは少し言葉を濁しながらも、安堵した表情を浮かべた。
「まぁ、なんやかんやで、皆先生の事心配してたんですよ、ほら」
　彼女が促した先には、五月や華菜子だけではなく寝子高の生徒達と露草がいた。皆、三和と空也が無事だった事に安堵し、心から喜んでいる。
「本当に、迷惑掛けてゴメンね。掃除、大変だったでしょ？」
「私たちがしっかりしなくてはならなかったのですが……」
　美和と空也が申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで「ありがとう」と頭を下げる。これには皆、少し照れくさいものを覚えたのだった。
「これで気持ち良く年を越せるだろう。先生、今度ご飯ご馳走してよ」
「う、うん。少し考えてみるわ……」
　刀の言葉に、美和は少し泣きそうな顔で頷く。そして小さな声で「ボーナスはそうやって消えていくのね」と呟いていたのは気のせいだろうか。そして、黒光りして肉厚な『アレ』を苦手とする面々は、幻影とはいえ突貫して行ったサキリと刀に畏敬の念の混じったまなざしを向けるのだが……。
（あれ？　俺、距離を置かれてないか？）
　と刀は引かれたような気がしてしまった事を付け加えておく。

「そうですね。皆さんには助けていただきましたし、今日のお昼は私たちで奢りましょう」
　空也の言葉に美和が頷き、皆で近くのファミリーレストランへと行く事に。
「頑張った甲斐があったな……」
　刀が密かに喜びを噛み締めていると、相変わらずだねぇ、と円がくすくす笑う。やれやれ、と庚が肩を竦めればエヴァと五月、華菜子が美和と楽しく話している姿を見、僅かに表情を緩める。そして、傍らにいたサキリとハイタッチして健闘を称えあった。
　ふと、気になった夏朝は時計を見ると、時刻はもう直ぐ午後２時になろうとしていた。恐らく、あまり待たずに入れるだろうと考えていると、碧南がぼんやりと呟く。
「なんだか、夢を見ていたような気がするけど……あの手ごたえは夢じゃないのよね」
　彼女の言葉に、「そうだよ」と夏朝は小さく頷いた。そして修もまた穏やかに言う。
「あの後、普通に掃除をするのだと思ったが……コレはコレで面白かったかもな」
　ただ、掃除が好きな修はちょっとだけ物足りない気持ちにもなったらしい。
「あ、あの……私もいいのですか？」
「手伝っていただきましたし、コレぐらいはしませんと」
　驚いた様子の露草に、空也がそう言えば美和が１つ頷く。露草はありがとうございます、と一礼した。

　こうして、無事に久保田家の掃除は終り、『フツウ』は守られた。掃除を終えた１１人はこの後、美味しいご飯に舌鼓を打ち、身も心も暖かい一時を過ごしたのだった。

（終）

このページにイラストを設定する