今年の汚れは今年のうちに？　久保田家ダンジョンの怪！｜リアクション

今年の汚れは今年のうちに？　久保田家ダンジョンの怪！

「なっ？！」
「……誰が『ゴキ』だ、人の苗字に勝手に濁点つけんなコラァアァァァア！！」
　普段は穏やかな性格の露草が、怒りの表情を見せていた。というのも、彼の苗字は『深縹（こきはなだ）』であり、中学時代この「こ」に濁点をつけられたりとからかわれ、中学時代の一時期荒れていたのである（と言っても年齢制限のある事は一切していないあたり彼らしい）。相当のトラウマだったようで、露草は幻影を見た途端過去を思い出し……堪忍袋の緒が切れて今に至った。
「オラオラオラオラオラァアアア！！」
　勇ましい掛け声と共に雑巾を巻いた拳が唸る。ぼこすかに殴られたキングゴミ怪獣はたまらないとばかりに再びゴキブリの幻影を解き放つが、こちらは庚と五月が箒と雑巾を使って掻き消してしまう。それでも、サキリも刀も、露草も怯まなかった。
（汚いのは全く平気だよ。この島に来る前、ゴミ漁りとかして暮らしていた事もあるからねぇ）
　どことなく過去の事を思い出し苦笑するサキリだが、油断はしない。刀や露草と連携を取り、絶え間なく攻撃が当たるように工夫する。それを支えているのが、修の掃除機。細かな塵が吸われる事で徐々にだがもろくなっているような気がするのだ。
「これが終わらなきゃ新年がこねええ！」
　刀がハンマーを振り回し、その一撃と共に露草が箒を振るう。そうしている間にも、碧南と円が戦場へと姿を現す。因みに気絶中の華菜子はホコリヒツジを倒しきったエヴァと五月、夏朝に預けている。
「よっし、幻と解れば怖くないわ！　加勢するわよ！！」
「ここからが本番かな？」
　コートで見せる真剣な顔となった碧南は、トングを片手に攻め立てる。その一撃一撃は鋭く、脆くなった所を的確についていく。円も接続部分にフロアモップを押し付け、薙ぎ払って行く。だが、それでもキングゴミ怪獣は倒れない。
　手当たり次第に吐き出されるゴミの塊を、庚はろっこんで青白く輝いた拳……に握られ、同じように輝いた箒で叩き落とした。
「悪りぃな、遅れたか？」
「いや、これからだ」
　刀がそう言えば２人は頷き合う。そして、庚は進化したろっこんの能力で身体能力を上げ、思いっきり箒でゴミ怪獣を殴りつけた。同時に刀もハンマー攻撃を繰り出し、鈍い音を立ててゴミ怪獣が大きく崩れる！
「わぁ！　もうちょっとだよ！」
「なら、そろそろか……」
　掃除機のゴミパックを交換しつつ吸引を続けていた修が、どこからともなく綺麗なハンカチと噴霧式消臭剤を取り出した。
「くらえ、ニャブリーズバズーカだ！」
　フシュー、と音を立てて散布される消臭剤。それによりキングゴミ怪獣が動きを鈍らせ、苦しそうに身悶える。だが、これを見逃す者は誰もいなかった。
　まず動いたのは円。フロアモップで弱いだろう部分を押して薙ぎ払い、思いっきり体中にひびを入れる。次にサキリが小箒二刀流で、キングゴミ怪獣の腕をすっ飛ばした。そして、生じた罅へと碧南が、庚が、刀が、露草が己の武器を思いっきり振るった。
　すると、キングゴミ怪獣が身動きをやめその場に倒れる。同時に大きく入った罅から金色の光が噴出し、辺りを染め上げていった。
「塵は塵に帰るんだ……」
　修が、掃除機で中心部分を吸わせれば、庚と刀が箒とハンマーを中心に叩き込む。そして、止めとばかりに露草が雑巾をまいた拳を突き入れた。

　――瞬間、何処からともなく風が吹いた……。

（ん？　こいつ何か言わなかったか？）
　倒される直前、ぱっくりと開いたキングゴミ怪獣の口を見た庚たちの疑問を残して。

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