落葉の季節――男たちの秘密！｜リアクション

落葉の季節――男たちの秘密！

☆サッカーの授業

「何で今日に限ってサッカー！　しかもヘディング！？　狙ってんだろ！！」
　刀は文字通り頭を抱えた。
「頭に古生代の神が封印されてるので見学ってことで……」
　勘三郎が言うが。
「いやさすがに無理だろ。うん普通に授業こなしてたらバレる。こうなったら……」
　刀は決意を秘めた面持ちで勘三郎に耳打ちした。
「……いいのか」
「ああ、遠慮なくやってくれ」　

（なんということだ！　俺のような爽やかイケメン紳士が禿げてしまうなんて！）
　八十八旗信彦は輝くのには慣れている。
　しかしそれは金髪や女性を虜にする笑顔がであって、ハゲがではない。
（今日一日だけならスキンヘッドの好青年としてイメチェンで通せる自信はあるけれど……ダメだ。俺の健康面でレディ達を不安にさせてしまうかもしれない）
　どこまでもレディへの愛で思考する信彦である。
「やはり隠しとおす他ないか」
　と言うわけで、信彦は登校後コスプレ部の部室へ向かった。
　コスプレ部の小道具であるシリコンネット＋両面テープで固定することで、自毛ヅラがズレるのを防ぐ。
　そしてヅラの上から更に黒髪のヅラをかぶったのだ。
（二重にカツラがあるとは考えないだろう。周囲にはイメチェンだと主張することにしよう。黒髪のカツラなら先生にも真面目アピールできるしね）
　とはいえ、サッカーの授業である。
「サッカー部員なので大丈夫さ。ヘディングは頭じゃなく、オデコでやればいい」

「あかりはへでぃんぐとくい！」
　得意と言いつつ、明里のボールはあらぬ方向へ飛んでいくのだが。
　今日の体育科女子の体育の授業は、二つのうち好きな種目を選択できた。
　そんなわけで橘明里は、普通科男子に混じってのサッカーを選んだ。

　開始早々。
「あっ。しまった！」
　バシィ！
　勘三郎の蹴ったボールが刀の鼻を直撃した。
「すまん、大丈夫か？」　
「あ、ああ……」
　ジンジンする鼻に手を当てれば、狙い通りに垂れてきた鼻血。
「先生、鼻血が出たんで保健室へ行ってきます。山田、付き添い頼めるか」
「ああ、ごめんな」
　それはハゲを隠すため、身を挺しての刀の作戦であった。
　付き添いを頼めば二人とも授業を抜けることができる。
（あんなのよけられない御剣じゃないだろ？）
　誰もがそう思ったが。
「痛い……」
　鼻の痛みに嘘はないのだった。

（なるほど、ああいう手もあるか。でも顔を犠牲にしたくはないな。レディが嘆くからね）
　信彦は考えた。
（あ、ヅラがズレてきた。そうだ）
「あかりん、あの人の髪の毛、ちょっと不思議だと思わないかい？」　
　と信彦は利平を指差す。
「ほんとなの」
　黒いゴムを顎につけた様子は、ちょっとどころではなく不思議だ。
　首を傾げていた明里はそっと利平に近づいて、いきなりゴムを引っ張った。そのまま離す。
　びよーん、ベチッ。
「いててて、俺のアゴヒゲを引っ張るな！」
　ゴムが当たって痛がる利平。
　ゴムを引っ張ったとき、少しだけヅラがずれて地肌が光った。
　それを見て明里は、
「あなたも天使の力が満ちてるのなのね！」
　と目を輝かせて微笑むのだった。
　利平が周囲の注目を浴びているうちに、信彦はすばやく自分のヅラを直した。
（うん、うまくいった！）

「ヘイパース！」
　その後も明里はヘディングのパスを繰り出し、あらぬ方向の男子たちに顔面キャッチさせかけた。
　明里の笑顔と共に、カツラのずれた男子たちの阿鼻叫喚が巻き起こるのだった……
「今日はみんな天使なの！　これは封印を解除するべき？」　
（レディの笑顔が見られて、俺のカツラも守れるんだから、一石二鳥だね！）
　野郎の犠牲は気にしない信彦であった。　