落葉の季節――男たちの秘密！｜リアクション

落葉の季節――男たちの秘密！

☆その朝

　旧市街の雑貨屋、天動商店。
　店主の天動記士郎はごく普通に起きてトレーニングした後、シャワーを浴びていた。
　ずるっ。
「あれ……？」
　頭の違和感に一瞬何が起きたかわからなかった。
　触れてみれば、指にあたるつるつるの肌。
　サラサラストレートのロンゲを引っ張れば、そのままカツラのようにするっと外れてしまった。
（これは老化……？　前に老人化した時、髪はどうだったでしょうか……）
　考えるが思い出せないまま記士郎は服を着た。
　仏壇に目をやれば、祖父の写真はやはりつるっぱげ。
「いつかは来ることとは思っていましたが、唐突ですね……」
　まだ２６歳、あまりに早すぎる。抜け毛が増えたりもしていなかったはずだが。
　
　ドンドンドン。
　開店時間には大分早いのに、天動商店の戸を叩く音がした。
　お得意さんにはそれほど珍しいことではない。
「はいはい、今開けます」
　ついいつもの調子で返事する。
（このままだとまずいですかね……）
　とりあえず髪をカツラのようにかぶってみるが、ずれているようでいまいちおさまりが悪い。
　しかし待たせておくわけにもいかず、記士郎はそのまま戸を開けた。
「ごめんなさいね、早くから。カイロを切らしちゃって……あら」
　客はよりによって噂好きの老婦人だった。
　彼女は記士郎を見て、目を見開いた。何やら言いたくてうずうずするのを抑えている様子だ。
　支払いをしながらも、なんとなく視線が上のほうに向かっている。
「ほんと助かったわ、ごめんなさいね、お仕度中のところを」
　謝ってはいるものの、老婦人はにやにやし通しだった。
　老婦人が帰ってほっとしたのもつかの間、また次の客が現れた。
「おはようございます。トイレットペーパーを切らしちゃって。今日は風が強いわねえ」
　何か聞いたのか、さっきの老婦人と仲良しの客だ。
　やはり視線が上のほうをチラチラさまよい、さっきの客と似たような笑みを浮かべる。
「ふむ、まずいですね……どうにかしなければ」
　客が帰ってから、記士郎は思案した。
「そうだ」
　記士郎は倉庫へ向かい、いくつか箱を運び出してきた。
　中から出てきたのはクリスマスのパーティーグッズ。
　坊主頭とかちょんまげとか三つ編みとかのカツラだ。
「さて、どれにしましょうか」
　記士郎は鏡の前でいろんなカツラを合わせ始めた。　
　

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