……アンド・ジャスティス・フォー・オール｜リアクション

……アンド・ジャスティス・フォー・オール

　公園の外に停まったワゴン車、その車体横には、ある進学塾の名前が書いてあります。
　運転席にいる男は足元からつかみ出した紙袋を開け、中に入ったものを確認していました。
　一万円札です。それも、相当数の。
　それまでずっと眠そうな顔をしていた男ですが、急に明るい表情になりました。オモチャを与えられたばかりの子犬といった感じでしょうか。それよりはずっと、邪気の多い明るさですけれども。
　このとき、コツンとドアが叩かれたような気がして、男はさっと紙袋を足元に追いやりました。
　窓の外に目をやります。
　運転席のすぐ外に女性がいるようです。なにか言っているようですが、くぐもった声でよく聞こえません。
「一体何だよ……」
　男が窓を開け、「はいー？」と寝ぼけた声を上げたとき、しまった、という風に天神平庵は顔を曇らせました。
　公園の周囲を見張って、庵はこのワゴンが停車したのを確認しました。まもなくして、この車から数人の小中学生が降りて公園に入っていったところも。こんなところに塾舎があるとは思えないし、まさかこんな時間に屋外学習でもありますまい。まず犯人と見ていいでしょう……ここまでは良かったのです。
　つぎに運転手が一人になるのを見計らい、窓から首を出したところにとびかかって、麻酔薬を吸わせた布を押し当て眠らせるのが庵の計画でした。ところがこのワゴン車は運転席の位置が高く、さらに庵は背が低いという事情もありました。男の顔に布を押し当てるのは、物理的に難しいのです。
「はいちょっと顔を下げてください」
　庵は何気ない風を装って言ったものの、男はそこに込められた響きに違和感を持ったのでしょう。
「あんた、なんなんだよ？」
　と言って従いません。不審げな顔をしています。
　下手をすれば逃げられてしまうかもしれない。
　こうなれば一か八かです。
「えーい！」
　庵は男の顔めがけ、催涙スプレーを噴射しました。八葉るちるが使ったのと同じものです。
　命中、男は猛獣みたいな声を上げて車から飛び出しました。
　それでも体格差があります。跳びかかって男の顔に布を押し当てるのはやはり難しい。
「これは計算外だったね……！　単身行動はまずかったか！」
　庵が調べたいのは車内、けれどこの男をどうにかしないかぎりそれは不可能でしょう。このままでは返り討ちにあってしまう可能性すらあります。
　このとき、男は別の種類のわめき声を上げました。さっきまで目を抑えて苦しんでいたのが、今度は体中を叩きながら狂ったように走り回ります。
　服が燃えているのです。しかも、一カ所ではなくほうぼう。
「お仕置き、二人目だ。大人だからな、炎の烙印は多少きつめに刻んでおく」
　庵が振り向くとそこには、白い仮面を被った青年の姿がありました。
　灯斗南です。
　彼は、引きずるようにして小学生くらいの少年を連れていました。少年は焼けて炭のようになった野球帽を被っていました。六年生くらいに見えますが、幼児みたいに泣きじゃくっています。