……アンド・ジャスティス・フォー・オール｜リアクション

……アンド・ジャスティス・フォー・オール

　やがて噴水前に、複数の人影が現れました。
「おやおや、おそろいで」
　エレノア･エインズワースは伊織源一とともに広場に入り、避暑地を訪れた貴婦人のような笑みを浮かべたのです。同行する源一はむっつりと黙ったまま、小脇に少年と少女ひとりずつを抱えています。少年も少女も、もう抵抗する気はないようでした。
　といっても、源一は二人を傷つける気はありません。
「……手を離す」
　こう予告してから、彼らを降ろしました。
　さらに、
「この子は遊撃手だったのかな？　別で捕まえたよ」
　天神平庵が少年を連れて姿を見せます。そう、この少年が『兵藤』です。兵藤少年は焼けた帽子をかたくなにかぶり続けています。顔はやはり涙でぐしゃぐしゃでした。
「ほら、こいつが引率者だ」
　白い仮面をつけたままの灯斗南が、一人の男の背を蹴り飛ばしました。蹴られた男はどっと前のめりに転びます。塾の講師です。送迎バスの運転手でもあります。
　衣服のほとんどを焼かれ、この寒空に半裸になった男性講師が、小さくくしゃみをして自分の身を抱くようにして座り込みました。
「これで多分、全員だね」
　という庵の言葉にかぶせるようにしてエレノアが言います。
「細かい事情の説明は抜きにしましょうか。どうやら皆さん、同じ目的で集まったようですから」
　エレノアはやはり、凍りついたような薄笑みを浮かべていました。
「警察呼ぶ前に説教大会でもするんでしょ？　どーぞ私は悲喜劇を鑑賞する心持で楽しみますので」
　そう言って彼女は枯れた噴水の縁に膝を組んで座り、鞄からポテトチップスを取り出してパリパリと食べ始めたのです。
　斗南はエレノアの言い方が気になったらしく、仮面の顔を一瞬彼女に向けましたが、すぐに前に向き直りました。下着だけになった哀れな風貌の男を指差し、犯人グループを見回して、
「この男は、自分の生徒に他人を暴行させた悪人だ。お前たちの理屈ならこうしても許されるよな」
　少年たちは顔を伏せて何も言いません。少女もです。誰一人、講師のほうを見ようともしない。
　無反応が気に入らないのか、斗南は言葉を重ねました。
「許されるよな？　善行だろう？　なにより、僕はスカッとした」
　そのとき歌うように、エレノアが口を挟みました。
「児童買春を防ぐための暴力は駄目で、暴行を防ぐための暴力はOKっていうのもね……ふふふ」
　無言で斗南は彼女を見ました。エレノアも、彼の視線をまともに受けて平然としています。
　張り詰めた空気を和らげるように、声を上げたのは庵です。
「そんなに怖がらせなくたっていいじゃあないか、仮面のお兄さん。そこのお嬢さんも、皮肉はほどほどにね」
　と言って一歩前に出ると、噛んで含めるように少年たちに語りかけたのです。
「車内に残っていた角材にね、ルミノール反応が出たよ。もう言い逃れはできそうもないね。あとね、この男、車内にたんまりと金を溜め込んでいたよ。どうもこれが怪しいんだなあ。これまでの援交狩りで得た金かね？」
「お、俺たちは免許や社員証以外は捨てさせて……」
　最年長とおぼしき少年が声をあげましたが、それを制するように狐の雰囲気の少女がぽつりと言いました。
「処分は、あいつに任せてた」
「……！」
　少年は黙りました。自分たちの甘さを悟ったのでしょうか。
「それで、この件の始末だが」
　風雲児轟は、問いかけるような目を七枷陣に向けました。陣は常闇月に視線を送りましたが、月はただ、目を伏せていました。
　けれども轟も、陣も、月も考えは同じでした。それを市橋誉が具体的に言ったのです。
「今回のことは因果応報……してきたことの報いがあったと思ってほしい。どんなに正当性を主張しようと、法を犯すことを俺は正しいと思わない」
　尾鎌蛇那伊が静かに呟きました。
「他の人の考えは知らないわ。けど私は本当は、お尻ペンペンくらいで許してあげたかったんだけどね……」
「だから」
　と蛇那伊にうなずいてから、八葉るちるは締めくくったのです。
「警察を呼びます。いえ、実はもう数分前に連絡しました」

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