ねこじまファイターズ！｜リアクション

ねこじまファイターズ！

●Round3　Fight！
　バタフライレディ・屋敷野梢。
　山ガール・藤堂月乃。
　二人の戦いの舞台は言わずもがなというべきか、九夜山となっていた。
　伸び生えた木々に囲まれた天然のリングで、二人が対峙する。
「か弱い乙女の力、見せてあげます」
　梢が蝶の羽を生やして、そう宣言する。
　対して月乃は、飴玉を口に入れた。
「かひょわいおほめの力、見ふぇてあげまふ！」
　上手く発音できなかった！
　しかもなんか被ってた！

　STAGE:KU YA SAN
　　　　　KOZUE VS TUKINO
　　　　　　　　　　　　　FIGHT！

「蝶の力、思い知るといいです！」
　梢が大量の蝶とともに飛び上がった。月乃が見上げるも、蝶は視界を埋め尽くすほどに頭上を覆い、目眩ましとなっている。
　そして次の瞬間、蝶の群れをかきわけて巨大な物体が降ってきた。
　黄色の車体に、鉄の円柱がタイヤとなったその物体は。
「ロードローラーですっ！」
　重機のハンドルを握った梢がどや顔で言い放つ。
　蝶の力、とは。
　ともあれ、重さ数トンの物体がもつエネルギーたるや絶大だった。ロードローラーは自由落下の勢いのまま、月乃ごと地面を踏みつぶし、飛び散った土は煙となって巻き上がる。
「ふっふー、ちょーっと大人げなかったですかねぇ～」
　梢は重機のエンジンを駆動させた。
「魅せるギャラリーがいる時は、開幕大技はやめた方がいいでしょうか……！？」
　ドッドッドッドッド……勝利のエンジン音にひたっていた梢の表情が強張る。
　ロードローラーが揺れ、地面から浮き上がっていた。
「肉体言語は～」
　ろっこんによって重機を持ち上げた月乃の胸で輝くは、『栃木魂』と書かれたシャツ。
「乙女の嗜みよ！」
　気合一声、月乃のぶん投げたロードローラーはおもちゃのように転がり、木々をなぎ倒していく。
「この身に宿るは、栃木の血と情熱。この想いがある限り、負けないよ！」
　ストリートファイトの頂点を取り、栃木のすごさをアピールしたい（という設定の）月乃。
　その情熱を反映してか、煙をふいた重機が爆発炎上を起こす。
「栃木が何だっていうんですか、ここはねこじまです！」
　間一髪、蝶に変化して脱出していた梢。
　生まれを言うなら梢も島生まれ島育ちである。
　しかし月乃はその言葉を聞いてふっと微笑んだ。
「いつからここが、ねこじまだと思っていたの？」
「なにを訳の分からないこと……はっ！？」
　言いかけた梢が、周囲を見て言葉を失う。
　見慣れた島の森……そう思っていたが、何かが違った。
　猫鳴館が突如現れていた。その周囲では野生動物たちが柔らかい日差しに姿を見せている。
　なぜかイチゴや餃子、ふくべの果実――かんぴょうにする前の状態だ――といった大きめのオブジェがそこかしこに転がっており、動物たちは美味しそうにそれを食べていた。
　他にもいろいろなものが現れていた。どれも栃木県を代表とするものだ。
「これは……心象風景の具現化！？」
「そう、これが栃木愛のなす奇跡！」
「ただのカオス空間じゃないですか！」
　どうやら森が、月乃の栃木精神に汚染されてしまったようだ。
「というか、栃木の森が絶賛燃えてるんですよねー」
「え？」
　見れば、ロードローラーから噴き上がる炎が、栃木の空間に燃え移っていた。
「…………よそ見をしてる暇はないよ！」
「見なかったことにした！？」
　燃える木々を背景に、梢へと迫る月乃。その両拳が唸る。
「栃木ラッシュ！」
「くっ」
　向かってくる彼女へと、梢が蝶を飛ばす。蝶は人体模型やブロックなど、足止め用のものを変化させていたのか、二人の間に障害物の山が築かれていく。
「その程度！」
　しかし栃木への愛を背負った月乃のパンチは、その山を文字通り粉砕していく。
「これは、一旦距離を開けないとまずいですねー」
　梢は盾代わりのアイテムを撒きつつ、後退する。
「逃がさないよ！」
　人体模型を手刀で断ち割り、ブロックをグーで粉砕し、追う月乃。
　今のところ乙女成分は、たぶん、なかった。

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