寝子島大橋をわたって～晩秋｜リアクション

寝子島大橋をわたって～晩秋

　寝子電に揺られて鎌倉までやってきた時高クレオは、すっかり舞い上がって鼻歌を歌っていた。
「休日だけど早起きして、一人でお出かけするなんて……しかも行き先が鎌倉だなんて、私ってばなんか大人っぽいかも？」
　クレオは背伸びをしたいお年頃。よくはわからないけれど、とにかく大人っぽい事をしてみたいのだ。
「とはいえ、鎌倉って何があるのかよくわからないわ……やっぱり、大仏様かなぁ？」
　すぐ思いつくのは鎌倉大仏くらいだ。クレオはスマホを取り出して、行き方を調べた。

「あ、かんなちゃん！」
　夢月姫は、散歩中の桃井かんなを発見して声をかけた。
「姫ちゃん……？どうしたの、こんなとこで」
「本土のおじーちゃんとおばーちゃんに会った帰りなのです。かんなちゃんは何してるんですか？」
「一人でお散歩にきたの」
「そうなんですか、まだ早いから一緒にお散歩したいです！」
　姫の後ろを歩いていた飼い猫のくろとしろが、にゃあと鳴いた。家で留守番するように言ったが、ついてきてしまったのだ。お利口な猫たちは、かんなにはちゃんとなついている。
　二人と二匹が出会った場所は、島から本土にわたってすぐのところ。近くの鎌倉を回ってみることにした。
「かんなちゃん、食べますか？おじーちゃんたちがくれたの」
「うん、ありがと。……お花のクッキー、可愛いね」
　姫の背中のリュックには、お菓子がいっぱい入っている。ポケットには、テオの顔入りのカイロケースが、まだ温もりを保っていた。
　駅の近くの観光案内所で地図をもらうと、鎌倉探検の始まりだ。
「鎌倉大仏に行きましょう！本物見るの初めてなんです」
　姫は、かんなの手を引いて参道を歩きだした。

「おっきい！何とも言えない迫力を感じる……気がする」
　時高クレオは、大仏様を見上げて思わず声を上げた。長谷駅で下車すると、高徳院の阿弥陀如来坐像、すなわち鎌倉大仏を拝観できる。やはり間近で見てみると、写真ではわからない迫力がある。

「すごーい、おっきいね！」
「写真に入りきらない……」
　すぐ横にいる小学生の女の子二人組も、感動している様子だ。白と黒の二匹の猫を引き連れた二人の女の子は、大仏の脇にある案内板の『胎内拝観』の文字に目をとめた。
「これ、何て読むんでしょう？」
　クレオは、夢月姫と桃井かんなの二人に助け舟を出した。
「『たいないはいかん』って読むんだよ。この大仏様、中に入れるみたいね！」
「え、大仏様って中に入れるんですか！？」
「うん、私も知らなかったけど……一緒に胎内拝観してみる？」
　三人は受付で胎内拝観料を支払い、大仏の内部に入る。猫のくろとしろは外で待ってもらった。頭上にぽっかり空いた穴が、大仏の頭部に当たる。
「うわぁすごい！大仏様の中ってこんな風になってるんだ―――昔の人はすごいわね、こんなに大きな大仏様を作っちゃうんだもの」
　クレオは、大仏の中で遥か昔の人々の信仰心に思いを馳せる。三人は外に出ると、改めて大仏様を見上げた。

（これってやっぱり、デートになるのかな……）
　みなとみらいを歩きながら、鵙海甫は傍らの千堂結のことを意識した。ついこの間、「ちょっと付き合ってよ、買い物行こうぜ」とつとめて平静に誘った。結は快く返事してくれたが、内心ではどう思っているんだろう。
　気にはなっていたが、みなとみらいに行くのは初めてだ。
「鵙海君、あのお店に入らない？」
　結が指さしたのは、アンティークな雰囲気の雑貨店だ。甫には特に反対する理由もない。
　品物を選ぶ結を、甫はそっと見守る。赤いバラのデザインのイヤリングが気に入ったようだ。
「これ、かっこいい……鵙海君に似合うと思うよ！」
　結が見つけた革のパスケースに、甫も興味を惹かれたが……
「うえ……」
　値札の桁数を見て、購入を断念する。
「バイト探そうかな……」
　二人でゆったりと買い物したり、食べ歩いたりしているうちに、11月の太陽は少しずつ傾いていった。