寝子島大橋をわたって～晩秋｜リアクション

寝子島大橋をわたって～晩秋

「ふー、横浜楽しかった！」
　千堂結は、横浜散策に満足したようだった。日が落ちるとすぐ街は夕闇に包まれ、イルミネーションの明かりが灯った。
「あんまりここまで来ることないし、いつもと違う景色が見られて、すごく楽しかった……もちろん寝子島も楽しいんだけどっ」
「そっか、良かった」
　鵙海甫の口調はぶっきらぼうだが、どこか優しげだった。
「イベントでもないのに毎日こんなにライトアップしてるなんてすごいな」
「うん、とても綺麗」
「なあ」
　甫が前方を指さした。
「一緒に、あれ乗ってみないか。あのてっぺんから見渡したら絶対すごいって！」
　彼が指しているのは、このエリアでもひときわ目を引く、１周15分の大きな観覧車だった。
「うん、賛成！」

　休日の夜、観覧車にはそこそこに列ができていた。カップルが多い中、二人はちょっと気恥ずかしげに並ぶ。結は待ちきれない様子だ。
「この観覧車、乗ってみたかったんだー。小さな夢が叶った気分……」
　二人が座席に向かい合って座ると、ゴンドラの扉が閉まり、ゆっくり動き出す。
「買い物も結構したねっ。ハッスルしちゃった」
　活発に話しながら、結は甫のことを意識する。
（観覧車に二人っきりって、こんなこと自体めったにないよね……あー、なんだか急に緊張してきた……）
　胸の鼓動を感じながら、結は照れるのを抑えるように話し続けた。
　目の前には、宝石箱を除いたような夜景が広がる。今日訪れた横浜の街のこと、お土産に買ったイヤリング等々の雑貨のこと……ゴンドラが上がりきったとき、そんな話題も尽きて話が止まる。
　甫は結を見た。なにか話さなくちゃ。そうしていないと落ち着かない。でも、今は言葉が出ない。
　甫はガラスに手を当てる。
「これ揺らしたら怒られるかな……へへっ、冗談だって」
　結は、甫の不器用な照れ隠しを察して笑った。
「あっ……そうだ、これ」
　話題の不在を何秒にも何分にも感じながら、甫はちょっと高級なお菓子を買ったのを思い出した。
「観覧車で食べようと思って。前にご馳走になったからさ、そのお返し」
　彼はそう言って、チョコレートのフィナンシェを半分にした。
「……ありがと」
　半分のお菓子を受け取った結が話し出す。
「……あ、の。私ね、鵙海君が初めての友達なんだ」
「……千堂？」
「色々あっていじめられてたし、友達もいなくて……自然と人が怖くなってたのかも、って思うけど、今はもう怖くないって思える」
　結はもらったお菓子を大切に手に包み、心の内を語る。
「その、あの……ありがとう。ちゃんとお礼、言いたかったんだ。……鵙海君のお陰だから。えへへ、柄にもないこと言ってるかもしれないね」
「いや、そんな……礼なんて……」
　甫が顔を赤らめて言いかけたが、照れた結は話題を打ち止めにした。
「わー！夜景、綺麗……夜空と一体化して、きらきらしてる……。来てよかった、こんな綺麗な景色が見られるなんて」
　そんな結の屈託のない笑顔は、甫にはどんな夜景よりも綺麗に見えた。
「しかも一人じゃない、鵙海君がいる。―――ふふ、今日はいい夢が見られそうな気がする！」
　
　横浜の街の夜が更けていく。それぞれが過ごした晩秋のとある休日が、こうして終わりを告げた。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。

久しぶりの（といってもらっかみタイムでは２ヶ月ですが）島外シナリオはいかがでしたか？

自身の内面を掘り下げたり、友人や恋人との関係を深めたり、新しい人間関係を築いたり。
それぞれのキャラクターが人格を持って動く、そんな物語を作れていれば幸いです。

また、同じようなお話を出すかもしれません。その時も、どうぞよろしくお願いします。

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