＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～｜リアクション

＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～

急

　ドロップを噛み砕き、御剣刀は飛翔する。甘い星を噛むたびに、その胸は言いようの無い切なさに締め付けられ、かき乱される。２人の少女と、先日であった影の貴人・帳の姿が脳裏を過ぎる。

　――この切なさが、お前らを苛むから、愛憐と共に戦おうとするのか？

　ガリッ、と音を立てて砕けるドロップ。それは不思議な力をもって刀に翼を与えるも、その心をぐちゃぐちゃにしていく。それでも堪え、刀は飛ぶ。

　――この想いがお前らを、突き動かすのか？

（それでも……）
　刀は、いつの間にか涙を零しながら少女の元へと飛んでいた。

＊＊＊＊＊

　――私、本当は今頃、入籍している筈だったんです。
　ビルの５階。そのフロアで恵御納久隆は泣き続ける瓜山メイの話を聞いていた。
　メイには婚約者が居たものの、相手側の諸事情で解消となったという。過去のことだと割り切っていた筈なのに、その事を思い出して辛くなっていたメイに、久隆は複雑な思いを抱いた。
（流石に、これは……）
　久隆は、静かに話を聞き、相槌を打つ。メイは、少し穏やかな顔になって、「ごめんなさい、こんな話をしてしまって……」とメイは申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、気にしないでほしい」
　久隆はそういって窓を見る。ドロップは幸い、一階部分の窓をまだ突き破っていない。だが、ドロップがこれ以上積もり窓を割ってくるのならばより上階に避難させた方がいいだろう、と彼は考える。
　夕暮れの空、ちらほらと人らしき影がみえた久隆は、外に出てしまった妻、恵御納理沙の事が気がかりだった。

　＊　＊　＊

　愛らしい声色が、聞きなれた旋律を紡ぐ。だが、それは、異国の言葉で歌われていた。
　歌っているのは、あどけなさの残る少女。さらりとした灰色の髪に、黒い虎の耳と尻尾。みた感じでは１０歳になるかならないか、というぐらいだろうか？
　少女は虚空へと浮かぶ人々を見、挑発的な笑みを浮べる。
（あの女の子が……）
　デジカメでドロップの降る様子を撮影していた椿美咲紀は降り注ぐドロップの中、少女の姿を捉えた。ドロップ弾幕の厚い場所が発生源に近い、と思っていたが、予想通りだったと表情を引き締める。
　デジビデオのビデオモニタ部に映っていた少女と瓶が原因だと察知していた八神修は肉眼で見えるようになった少女に、先日であった影の貴人を連想する。
「あの虎の耳と尻尾……。月の民だろうな」
「ともかく、話をきいてみたいな」
　新田亮がぽつり、と呟き、修たちは頷いた。
　同じように星華と話そうと思った桜庭円は目の前にいる少女が思いのほか華奢である事に気付いた。気の強そうな目元をしているが、全体的に見ればか弱いという言葉がしっくりくる。
「確かに、手荒な真似はしたくないよね」
　普段より、ちょっと真面目な顔で頷く円の言葉はもっともであった。

「私は、影の貴人が１人、星華（シンファ）と申します。呪皇・愛憐様に仕える巫女の１人ですわ」
　優雅に淑女の礼を取る少女は、星華と名乗り優雅に淑女の礼を取る。それぞれ会釈などを返し、最初に声をかけたのは、亮だった。
「俺は新田亮という。俺たちは、お前に色々と聞きたい事があるんだ」
「どうして、こんな事をするのです？」
　続いて美咲紀が単刀直入に問いかける。修と円が見守る中、星華はきっぱりと言った。
「貴方がたが、寝子島の住人……その中でも神様からの賜り物を持つ存在、『貰火』である事は知っています。貴方がたは、我々にとって脅威。故に、始末に来たのですわ」
　揺ぎ無い眼に宿るのは、僅かな狂気。少女は薄桃色の唇を綻ばせ、息を飲む彼らに言葉を続ける。
「あら？　意外ですの？　貴方がたの事は帳姐様より聞き及んでおりますのよ。それに、『晴ノ国』や天狼族の一件なども……」
　どうやら、幾度も無く積み重ねた行動の結果、愛憐とやらは『もれいび』たちを警戒しているらしい。