＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～｜リアクション

＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～

　帳が来た時の事を思い出した円と修は自然と頷き、美咲紀から簡単に説明を受けた亮もまた相槌を打つ。だが、美咲紀の表情は曇ってしまう。
（……これは、話を聞いてくれるか不安です……）
　美咲紀は戸惑っていた。星華には迷いが無く、何か困っている事があるようにも見えない。
　その様子に、「大丈夫」と修が穏やかな顔で頷き、美咲紀もまた力を貰ったのか幾分か表情を和らげて頷いた。
「これは、誰かの命令なのか？　それとも、自分の意思か？」
「今回は、完全に自分の意思ですの。愛憐様は、寝子島の住人、とくに『貰火』を警戒しています。少しでも不安要素を取り除きたいのですわ」
　星華は胸を張り、小瓶を手に艶やかな笑みを浮かべる。それは、子どもには似つかわしくなく、それでいて、男ならば皆思わず涎と息を飲むような『何か』を含んでいた。
「槍や刃物を降らせるよりも、まだドロップに埋もれるほうが、素敵な死に方だと思うのです」
　彼女の言葉に、一同はどう返せばよいのか解らなかった。だが、彼女の声色に、確かに怒りと怨嗟が滲んでいるように思えた。
「それでも、愛憐様とやらは、本当に喜ぶのかな？」
　修の言葉に、星華は初めてきょとん、とした顔になった。
「愛憐様が……喜ばないはず、ないでしょう？」
　星華が、僅かに震えた声で言う。だが、曇った表情は払拭できない。亮は真面目な顔で、静かに言った。
「寝子島だが、『もれいび』以外の人間の方が、遥かに多い。そして、俺もさっき知ったばかりだけれども、＜月華世界＞とやらについて知らない人もわんさかいる。……何も知らないまま死ぬなんて、理不尽すぎないか？」
「理不尽も何も！　月華世界に横から首を出してくる方が理不尽ですわっ！　貴方たちが天狼族さえ助けなければ、よかったのですわ」
　星華は自分達こそが被害者だ、と言わんばかりに言い張り、亮は表情を険しくする。美咲紀は、そんな星華に問いかける。
「困っている事があれば、何か私たちで手伝えませんか？　お互い助け合った方が、嬉しいでしょ？」
「っ！　そんな事を言って気を許すと思うのですか？」
　星華が警戒を解かないままそういうが、亮が静かに言う。
「簡単にはいかないだろう」
「だからこそ、僕たちは言葉を交わすんだと思うよ」
　円はにっこり笑って、星華に一歩踏み出す。
「ボクね、星華ちゃんが降らせたドロップのお陰で思い出したよ、恋の辛さ」
「……えっ？」
　星華はそんな言葉を言われるとは全く思わなかったのか、目を丸くする。と、星華の目を見て、僅かに笑う。
「辛かった、よね」
「……！？」
　円はそういって、星華を優しく抱きしめた。突然の事に美咲紀たちも驚くがそれ以上に星華が困惑していた。
「辛くて、嫉妬して、なんで自分が選ばれないのかなって、やり場の無い怒りを感じて、辛いよね。ボクもそうだったんだ」
　円が優しく、どこか苦しげにも聞こえる声で続ける。星華は、僅かに泣きそうな顔になりながら、ゆっくり円を押して引き離した。
「同情しているつもりですの？」
「ううん、ボクも同じだったから」
　星華の表情が、怪訝そうな物から、不安げな顔になる。修たちは、その様子から少しは対話できそうだな、と頷きあう。
（もしかしたら、戦わずに済むかもしれない）
　亮は、小さくため息をつく。まだ気は抜けないが、このまま済めばいい、と。彼がちらり、と円を見ると、彼女は小さく微笑んだ。
「確かに、辛いよ。でも、まっすぐ見て、それを受け入れないと自分自身が救われないんじゃないかな？」
　その言葉に、星華はぽろり、と１つ涙を零した。夕焼けに光った涙は、音も無くドロップへと変化し、虚空へと落ちていった。
　
（今回は直接叩く必要も無いわね）
　星華と話す者達を見、尾鎌蛇那伊は少し離れて様子を見ている。星華は瓶を大切そうに持っているため、手出しができないのだ。
「今の状態じゃ、すぐに判ってしまうわね」
　傍らにいた仙藤紫が僅かに瞳を細める。彼女としては問答無用で瓶を破壊したいのだが、微妙に破壊しづらい位置にいる。星華と名乗った少女を囲むように、何人もの人が集まっているからだ。
「様子を、みよう。……俺も、あの瓶は壊した方が、いいと思う」
　そう、優木遥斗は静かに言って愛用の竹刀を握る。素振り用のサイズが大きく太めな上、長い物で、中には鉄の芯が入っている大変丈夫な物だ。これをつかってろっこん『風の籠手』を発動させ、風圧で圧倒しようというのである。