＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～｜リアクション

＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～

（巻き込まれたのが俺の所為だ、と言われたら肯定するしかないな。でも、俺は、俺を通すために動く。そして、力が及ばなくなった時、俺は……）
　冷たい風に髪が踊る。刀は胸に満ちる切なさのまま、天を仰ぐ。そして、カメラを通して見つけた少女へと、風を切って舞い上がった。

　天に浮かぶ人々、空から降り注ぐドロップ。そんな状況に「なにやら面白そうな事になってるねぃ」と骨削瓢はにたり、と笑う。混沌を好む少年は、ドロップを拾い上げて僅かに瞳を細めた。
（このテの不可思議アイテムは、奪ってあっしが有効活用してやるよぃ！）
　そう思う側から、助け合いつつラブラブな空気をかもし出しているカップルか新婚さんらしき男女を発見する。……と、ぶわり、と季節外れの黄砂が渦を巻きおこし、降ってくるドロップを吹き飛ばした。
　瓢のろっこん『悋気の独楽』は『自分以外による恋愛模様を確認する』事で『局地的な竜巻を起こす』という物だ。更に進化能力によって『黄砂も飛んでくる』ようになっていた。
　ちなみに瓢自身はカップルの邪魔をするのが楽しいだけであり、憎い訳ではないらしい。
　それはさておき。瓢によって巻き上げられた黄砂とドロップは天へと舞い上がり、虚空に浮かぶ影を浮かび上がらせる。思ったより小柄なそれは、どことなく子虎を連想させた。だが。その影は手を翻したかと思うとバリアのようなもので自分をくるんだ。
（そう、簡単にはいかんさね）
　瓢は苦笑するとねこったーを見、かりっ、と音を立ててドロップを噛み砕いた。

　瓢がろっこんを発動させた頃。久隆と理沙は飴に足をとられた瓜山メイを救助していた。
「大丈夫ですか？」
　妻がいる手前、少し躊躇してしまった久隆だが、理沙に「旦那様、手伝ってっ！」と言われ手を貸した。
　メイは頭を下げて礼を述べるも、悲しげな表情は変わらない。２人はとりあえずちかくにあったビルの中へ入り２階以上のフロアへと避難した。そこには多くの人が避難しており、不安げに外を見ていた。
（無理も無い。このような状況だからな）
　ちらり、と椅子に座った理沙とメイを見た。メイは悲しげに夕日を見、ぽろり、と涙を流す。
　そんなメイを心配する理沙だが、彼女としてはねこったーに娘・夏朝が出していた情報も気になっていた。
「あなた、ごめんなさい。私、小瓶をどうにかできないか、見てくるわ。だから、他の人を、守ってほしいの」
「！？　待て、理沙っ、１人で飛び出すものでは……っ！」
　理沙は階段を駆け下りていく。久隆は妻を追いかけようとしたものの、メイの事は気がかりだ。それに、このフロアにはお年寄りや子どもも居る。彼は、止む終えずその場に残る事にした。
　振り返ると、メイは静かに涙を零し、左手の薬指を掴んでいた。それに何かを感じた彼は、ただ静かに問いかける。――よかったら、話してみないか、と。

　理沙がドロップを口にし、空に舞い上がる。静かに落ちる太陽の赤みがかった琥珀色の光が、遠い記憶を揺らす。浮かび上がる、愛しい夫の背中。戻って久隆に抱きつきたい、という衝動に駆られながらも、理沙は天を目指す。
（わ～ん、とっても切ないのよ……、あなたぁ～っ！）
　ちらり、とビルを振り返る。そこに久隆はいる。戻ればきっと抱きしめてくれるだろう。だが……。理沙は思いなおし、沸き起こる切なさを振り切って空を目指した。

　こうして、空には多くの者が集った。瓢が巻き起こした黄砂交じりの竜巻により浮かび上がった彼女は、不機嫌そうに瓶を抱える。風が止んだとき、まるでベールが剥がれるかのように、１人の少女が姿を現した。