焚き火のある光景｜リアクション

焚き火のある光景

　御巫時子は火から離れ古タイヤの山に腰を下ろし、ブランケットにくるまって火とそれを囲む人たちを見ている。
「御巫さん、ここにいたんですか」
　引率教師としての見回りを終え、戻ったものらしい。両の手を白衣のポケットにつっこんだ状態で五十嵐尚輝がやってきた。
「これくらいの距離でちょうどいいんです。熱は伝わってきますし……」
　でも気温は冷たいですから、と彼女は言う。
「ブランケットを持って来て正解でした」
　一拍おいて、ややためらいがちに時子は尚輝を見上げた。
「尚輝先生も入りませんか……？」
　あっさり応じるかと思いきや、尚輝は無意識的に頬をかきながら小声で言った。
「いいんですか……？」
「ブランケットは、ふたりで入れるぐらい大きいサイズですよ」
　もう冬は間近だ、なのに尚輝はコートも着ず、ただ薄い白衣のみを外套がわりにしているのである。見た目にも寒そうだった。
「ですけれど、その……」
「風邪をひかれては困りますから……」
「風邪？　それは、いやですよね」
　尚輝はその言葉を時子に言ったのだろうか。それとも、自分に言い聞かせたのだろうか。
　いずれにせよ彼は腰を下ろし、時子と一枚のブランケットを分け合ったのである。

　時子と尚輝のいるその前を、奇抜に髪を染め分けた少年が駆け抜けていく。
「うおー！　もう焚き火かなりいい感じじゃん！　炎のバーニング！　燃え上がるバーニング！」
　野菜原ユウだ。サイのような勢いで火に向かっていく。勢い余ってそのまま炎にダイブしそうなくらい超特急で！
「ユウくん！　一人で燃えないで！　爆破炎上するならボクも道連れにしてー！」

　ユウに負けず物騒なことを叫びながら、ポニーテールの少女が怒濤の勢いで追走していた。手には剣道の竹刀を握って、これをオラオラぶん回している。
　彼ら二人は火の輪くぐりでもしようというのか、まったく速度を落とさずむしろ加速して、まっすぐに炎を目指す。
「あの子たち、危ない……！」
　思わず尚輝も腰を上げかけた。
　それまで生徒たちと和気藹々と焚き火を楽しんでいた高野有紀だが、これを見るや血相を変えた。
「止まれーッ！」
　もうこうなったら構っていられない。有紀は手に持っていたものを投げ捨て肩からタックルにいく。突進してユウを止めようというのだ！　失敗すれば自分も炎に包まれるかもしれない。まさに命がけのタックル！
　だがその瞬間。
「急ブレーキ！！！」
　キャッホーと奇声を上げ、ユウはどしゃっと体から地面に転がった。もちろんすぐには止まらないが、オフロードカーレース並みにザリザリザリッと凄まじい音と煙幕みたいな土埃をもうもうと上げ、やっとのことで停止した。
　……炎は目と鼻の先である。
「きゃー！」
　このどさくさに、とばかりに萌も転がって、やはりザリザリのモクモクとなった上、ユウに覆い被さるような姿勢になって止まった。
「いやあ、危なかったぜ」
　ニヤッとユウは笑い、
「ユウくん、いくら盛り上がっても火ダルマはダメだぞ?　ちょめっ☆」
　と、萌は彼のおでこを指ではじくのだった。
　めでたし、めでたし。
　……ではない。
「こらお前らー！」
　痛む肩（タックルをかわされ地面に激突したのである）を押さえながら、有紀先生は鬼の形相でユウ、萌の襟首をつかむと、
「ちょっと職員室に来い！！」
　にわかには信じがたいが二人ともそのまま持ち上げて、引きずるようにして連れて行った。
　……こってりと絞られることであろう。
「ふぅ……」
　どっと尚輝はタイヤの上に座り直した。