【お三夜】まじかる・りりかる・人助け☆｜リアクション

【お三夜】まじかる・りりかる・人助け☆

　『魔法少女になるんだにゃ！』というお三夜さまキーホルダーの言葉に、トワ・E・ライトフェロゥはその瞳をきらきらと煌めかせた。
「Yes！　トワ、なるデスMagician girl！　Come on！」
　さあ来い！　とばかりに、期待に満ち満ちた表情でばっと両手を広げるトワ。
　黒猫の赤い目が、きらーんと光った。
『話が早くて助かるにゃ。では……まじかる！　りりかる！　めたもるふぉーっぜ！』
　黒猫が呪文を唱えると、目の眩むような光がトワを包み込んで。
　気づくとトワは、とびきりキュートな魔法少女に、
「Really！？　Black cat、コレ Magician 違うデス！」
　なっていなかった、残念。
　近未来映画に出てくるロボットやサイボーグを思わせるメタリックなヒーロー姿は、可愛いというより明らかに渋カッコいい路線。
　そして何より、確実に魔法少女じゃない。無駄に頭部のねこ耳だけが愛らしい。
　トワが手に入れた黒猫は、どうやらちょっぴり不良品のようだった。
『あっ、え、えーっと……よっ！　か、カッコいいにゃ！』
「嬉しくないデス！！」
　うー、とまだ幼い少女に頬を膨らまされて、さらに非は自分にあるとなれば流石の黒猫もたじたじだ。
『と、とにかく人助けをしたら元の格好に戻るから、は、話はそれからということでにゃ！』
　逃げた。トワの手の中に落ちてきた黒猫、もうただのキーホルダーに戻ってしまっている。
　何だか納得がいかない気持ちでいっぱいだが、
「人助けシタラ、モドレルデス？　なら、困ってる人、探すデス！」
　と、魔法少女になりたい！　というアツい思いのままに街を駆けるトワ。
　トワという少女は、とにかくポジティブなのである。
　そして彼女は、道を渡れずに困っているおばあさんを見つけ、その手助けをした。
　任務完遂、元の姿に戻ったトワは再び黒猫に直談判。
「もどた！　 Black cat！　One more、one more chance！」
　先ほど約束してしまった手前（そして自分がやらかした負い目がある手前）、『本当は２度目はないんだけどにゃあ』とか何とかぼやきつつ、黒猫はまた呪文を唱える。
　トワ、２度目のチャレンジにしてようやく魔法少女に、
「……違う、デスー！」
　なれなかった。今度は『鬼面タイガー』によく似た特撮ヒーローを思わせる姿（但し頭にはねこ耳）だ。
　人助け！　人助けデス！　と、トワはまた街を走る。
「ジブンより小さい子を虐める悪い子はトワ許さないデスヨー！！」
　と、調子に乗った悪ガキたちを勢いそのままに追い払って、また人助け完了である。
「Black cat！　トワはまほーうしょーじょ、なりたいデス！」
　元の姿に戻るや否や、黒猫の不手際を盾に再び変身！
　今度は『ウルティマシリーズ』の主人公風ねこ耳付き特撮ヒーロー。
　宇宙人とか倒せそう、とトワは思わず件のシリーズの主人公が必殺技を放つ時のポーズを決めるが、
「今なら、ソラも、飛べる気がスルデス！　……って、違う！　デス！」
　と、自分にびしっ！　とツッコミを入れるや、「こまてる人ー！　いないデスかー！」と、また街に助けを求める人の姿を探した。
　そして、本日３度目となる人助けを終えて。
　――ばんばん。ばんばんばん。
　公園に設置されたテーブルに黒猫を置き、トワ、テーブルを叩きまくる。
「Black cat、come back！」
『もう戻ってるにゃ！　無言の催促は怖すぎるにゃ、あれはやめるにゃ！』
　呪文、４回目。変身も、４回目。
　光が晴れた後には――念願の魔法少女へと姿を変えたトワの笑顔があった。

「……Magician girl！　まほーしょーじょ、デス！」
　明るくポップな色合いのコスチュームは、リボンやフリルがいっぱいの愛らしい仕立てだ。
　白いねこ耳とねこ尻尾もとってもラブリー。
　弾む心のままに、トワがくるりと一回転した、その時。
　公園に、トワよりもずっと幼い男の子の泣き声が響いた。
　派手に転倒した様子の男の子が、ひとりきりうずくまっている。
　助け起こしてあげなくちゃ！　と反射的に思うも、
「……でも、困ってる人助けたらまほーしょーじょじゃなくなるデス」
　やっとやっと念願の魔法少女になれたのに、と眉を下げてうつむくトワ。
　けれど、トワはすぐにきりりとして顔を上げた。
「モドル、ケド！　困ってる人、皆、アリガトウ言ってたデス！」
　トワが今日助けた人たちは、皆「ありがとう」と言ってトワに笑顔を見せてくれたのだ。
「Magician girlより大事なもの、あるマス！　助けられないまほーしょーじょナラ、そんなのトワいらないデス！」
　そうして小さな魔法少女は、またひとつこの街に笑顔を増やしたのだった。
　後に残ったのは、いつもの格好のトワとただのキーホルダーに戻ってしまった黒猫のぬいぐるみ。
「Key holderも反応しないデスネ。でも、do not regret。後悔してないデス」
　もう少し魔法少女でいたかったとは思うものの、トワの表情は晴れやかだ。
　正義の元・魔法少女は、清々しいような気持ちで家路につくのだった。

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