猫鳴館、自治会長選任戦・秋　～みんな熊になれ！｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦・秋　～みんな熊になれ！

●プロローグ

　霜月土曜の早朝５時。
　叩き起こされ熊皮を被らされた猫鳴館寮生と、たまたま友人の部屋に泊まっていたり通りかかったりして憐れにも巻き込まれた人々は、眠い目を擦りながら玄関前で「選任戦！」の放送を聞いていた。
　事のあらましが説明され、皆がハチマキを取る前のことである。

　　候補者と現自治会長のハチマキは１０ポイント。
　　寮生のハチマキは３ポイント。
　　寮生でない人のハチマキは１ポイント。
　　白ハチマキは寮生か否かに関わらず５ポイント。

　というルールが確認されのち、一匹の熊が大声を上げた。
「すみませんが不明点を確認させてください！」
　その正体は森蓮であった。

「熊皮の集団に遭遇した場合、見破り宣言は何回行えるのでしょうか？
　たとえば紫が３人いるところに青が１人来た場合、青は集団に１回遭遇したとして、１回だけ見破り宣言できるのでしょうか？　それとも紫の３人に１回ずつ遭遇したとして、１人に対し１回ずつ行えるのでしょうか？」

　反則を防ぐため主催者に大声でルール確認し、周囲に注意を促すというのが蓮の意図だった。
　これに答えたのはハチマキ入りの箱を持って来た茂だ。
　茂は今回、超優秀な黒子集団を率いての審判役を引き受けている。
「その場合は紫の３人に１回ずつ遭遇したとして、青の人は１人に対し１回ずつ行えることとしよう。青がその前に見破られなかったら、の話だが」
　
　ここから蓮の質問がいくつか続く。

「遭遇した際、見破り宣言は必ずしないといけないのでしょうか？」
「一方的に見破られるリスクを負ってなお、意図的に見破る宣言をしない、というのはＯＫとしよう」

「ゴール後に道を引き返して見破り宣言できますか？　その場合ポイントはどうなりますか？」
「ゴールしたらそこで得点は確定だ。道を引き返してゲームに再参加することはできない」

「見破りで得た熊皮を他の方に譲渡することはできますか？」
「それも不可だ」

　蓮はそのほかにも、『見破りで得た熊皮を被る、ハチマキを染色するなど、色を偽る行為』、『暴力や毒物で気絶・昏睡させたり、拘束・監禁したり、神社前に落とし穴やバリケードを設置したりといったゴール妨害行為』、『地下帝国や猫鳴館の室内などに隠れる行為』に罰則はあるのかも聞きたかったが、茂に質問はここまで、と制されてしまった。
　とくに注意がなかったということは、ある程度の創意工夫は許されるのだろう。本当に問題があれば、超優秀だという黒子集団が出てきてなんらかの審判を下してくれるものと、蓮は信じることにした。

　こうして各々ハチマキを取った。それから笛が鳴るまでの短い間にできる準備や、作戦会議をする。

　その間に人知れず邪衣士も、熊皮を普段のものから選任戦用の皆と同じものに被りなおしていた。
（さて俺のハチマキは逆転を狙える代物なわけだが……確実に狙ってくるだろうな……）
　現自治会長である士のハチマキは、色こそ白だが１０点の価値がある。
（そういえば身長とかも判断材料になるな……まぁ俺には関係ない）
　被り具合を確かめながら、士は今回の候補者たちに思いを馳せる。

　今回の候補者は４人。
　骨削瓢を応援する者には紫ハチマキを、森蓮を応援する者には緑ハチマキを、兵藤雅也を応援する者には青ハチマキを、橘明里を応援する者にはピンクハチマキを取って貰った。白ハチマキは中立だ。

（骨削と森はまぁなんだかんだで長い付き合いだな。
　骨削が自治会長になれば……良くも悪くも何かしらの変化が出るだろう。
　森が自治会長になったら寮生の意見要望なんかを丁寧に聞くことで争いのない猫鳴館にしてくれるだろう。

　橘は持ち前の明るさだな。
　ある意味では猫鳴館らしいのかもしれない。

　兵藤先輩のことはあまり知らないが……、
　年長者として引っ張ってくれると思う）

　誰がなっても、新しい猫鳴館が築かれてゆくに違いない。
　自治会長として過ごした半年間が走馬灯のように思い出される。
（とにかくこのメンバーのいずれかに今後を託すんだ。いまさら考えても仕方ない）
　士は転がっていた薄い本を蹴っ飛ばすと選任戦の開始を告げる笛を、思いきり吹き鳴らした。

「出発だ！」

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