【ガールズ・ブラボー！】

「おおっ、これはーっ……！？」
　全てが朝野 未沙に味方していたと言ってしまっても、過言では無かったかもしれません。
　彼女が目にしたものは……少女たち。ごろごろと安らいだ表情でソファに寝そべって、好きな本や美味しいスイーツなど楽しむ、服の乱れも気にせず無防備な姿をさらしている……うら若き、乙女たち！
　つまりは未沙の、大好物でありました。
「あっ、あーっ……もう少しで、あの子、スカートの中見えそう……！　でも、ちょっと遠いなぁ。でもでも、近づいて気付かれちゃったら、逃げちゃうかもしれないし……あれっ？」
　なんてやきもきした彼女の目の前へ、心配ご無用！　とばかりに現れるのは、これまたソファ。腰掛ければ実に気持ちが良さそうな丸型で、淡いピンク色は未沙にぴったりのカラー。それに何とも都合の良いことに、いかにも高性能っぽいゴッツイ双眼鏡まで用意してありまして……まるで、覗いちゃえよ？　遠慮せずに、さあさあ！　とでも言わんばかりの、この状況。
「こりゃもー、思う存分！　観察するしかないでしょ～！」
　何とも、困った少女ではありましたけれど。お膳立てが整ってしまったからには、こりゃもー仕方がない！　いざ、彼女たちをこっそりと、覗いてみることにいたしましょう。ふっふふふ。



　今日も元気いっぱいに自転車を漕ぐ、宇津野 京。軽快にペダルを踏み込み、風を切って疾走。上り坂だってなんのその！　小さい頃からモトクロスに親しんでいるのもあってのことでしょうか、二輪の乗り物にはちょっぴりコダワリがありました。
　と、そんな京の自転車が、きゅきゅっと急停止。道端に見つけたそれに、何だか、引き寄せられるような感覚を覚えまして。
「あ、これって……噂の、あのソファ？　わ～、気持ち良さそう！」
　それが神魂によるものと気付いていたかどうかはさておき、かの『猫印名品』から発売中の例のソファについては、京も知るところではありました。それがなぜだか今、目の前に、どどん！　横たわっていて、しきりに京の興味を惹きつけてくるのです。
　そして彼女といえば、この前向きにすぎる元気印！　もう、ひとつのためらいもありませんでした。
「てーいっ！」
　ぽふんっ！　ごろごろごろ……飛び込んでみますと、絶妙に沈み込むクッション生地。ヴィヴィッドなエメラルドグリーンは目に鮮やかで楽しくて、触り心地はふにふにふわふわ……すぐにも彼女は、すっかり虜。ふにゃふにゃ、だらーん！
「ああ……気持ちよくって、もう蕩けちゃいそうだよ～。あっ、バイクの雑誌に……お菓子まである！」
　疑いも無く、もうくつろぐ気マンマン。さっそくごろごろとしながら、雑誌をぱらりと広げます。近々、原付バイクでの通学を考えていたりするほどバイク好きな彼女には、まさしくお好みにピンポイントなチョイスなのです。
　傍らに用意されているお菓子のラインナップがまた、豪華！　コンビニに売ってるような馴染み深いスナック菓子から、高級そうな洋菓子、あまーいスイーツ各種まで、よりどりみどり。どれから食べようかなー……なんて、思ったところで。
「うにゃーっ、美味しー♪」
　京はお隣に、もひとつソファが並んでいることに気付きました。ちっちゃなひと口ケーキを、ぱっくん！　口に入れて幸せそう、ふにゃーっと彼女へ笑いかけたのは……黒谷 エイミー！
「キミも食べる？　ボクはねー、そっちのそれ、甘いのが好きかなっ。おススメだよっ♪」
「あ、いいの？　ありがとー！　じゃあもらっちゃうね。いただきまーす♪」
　何とも、ナチュラルなやり取りでありました。エイミーもまた、このソファをまったりたっぷり堪能しているところで、すっかりゆるゆる状態！　京も京で警戒するようなそぶりも無く、あっという間に打ち解けて、ふたつのソファに挟まれるように置いてあるお菓子を、互いにシェアすることになったようです。
　ふたりはお菓子に雑誌に、それぞれ好きなものを思う存分に楽しみながらに、
「ふにゃあぁぁぁ……このふにふにっとした感触が、良い感じ。たまらないよね～！　ウチにもひとつ、欲しくなっちゃうなぁ」
「うんうん、わかるー！　ボクもこういうの、大好き♪　やわらかもちもちでもー、ダメになっちゃいそうっ」
「だよねー。あっでも、お家にこんなのがあったら……ずーっとまったりしちゃって、ちょっと困っちゃうかも？」
「あっははー、そうかも！　こんなのがあったら、もう、動きたくなくなっちゃうもんねっ。うにゃああああん、しあわせ～っ！」
　ころころころん。ふにゃふにゃ、ゆるる～ん！　ここいちおー、道端ですよ？　というのもすっかりカンペキ忘れまして、あんまりにも無防備です。すりすりっとスベスベなソファカバーへ頬をすり寄せた京は、いつもの制服姿……つまりはスカートですし、むにゅーっとソファを抱きしめて、気持ち良さのあまりにうにゃうにゃと呂律のアヤシイエイミーは、オシャレかつちょっぴりセクシーコーディネート。そこらを男性諸氏が通りがかりでもしようものなら、少々、目のやり場に困ってしまいそうな光景ではありました。
　ともあれ今は幸い、他に人影も無い様子。ここは女の子たち、ふたりの空間！
「ねっ、それってバイクの雑誌？　すごーい、そんなの乗っちゃうのっ？」
「昔から、モトクロスはやってるんだけどねー。いつか公道で、ちゃんとしたバイクに乗りたいなーって！　ほら、これとかカッコ良くないっ？」
「にゃーっ、おっきいバイクっ。いつか、乗れたらいいねっ！」
「うん、ありがとー！　あっ、ねえねえ、君ってお洒落だよね～。可愛くて、ちょっと色っぽくて……いつもそういうの着てるの？」
「えへへー、褒められちゃったよっ、嬉しいな♪　ボク、オシャレするの好きなんだっ。これはねー、お気に入りのお店でねー……」
　なんて、お互いに興味のあることについておしゃべりしたり、たくさんのお菓子やスイーツを片っ端から味見しては品評してみたり、オススメしあったり。
　不意に、
「……あれーっ？　どこからか、視線を感じるような～」
　なんてエイミーが、あたりをきょろきょろと見回してみても、
「君、可愛いんだもん、みんな見ちゃうんじゃないかなぁ？」
「にゃははーっ、そうかなー？　ありがと♪　でも、キミだって可愛いよねっ」
「ええー？　だって私、子供っぽいし、そんなことないよぅ～……」
　結局、ふたりでころころ。
　何とも可愛らしくせくしーでありつつも、そんな風にして微笑ましい光景は、しばし続きました。



「いやいや。ふたりとも可愛いよー、サイコーだよー！」
　そんなわけでして、京とエイミーがソファに寝っ転がって仲良くころころ、楽しそうにしながら、徐々に着ている服がめくれあがったりなんだりで寝乱れていく姿を、未沙は双眼鏡を覗き込んではぁはぁはぁ。もう、これでもかっと堪能しております。
　ふっふっふ、とヨダレが少々垂れてしまうのも気付かずに、
「クラスメートのエイミーちゃん、なかなか良いモノをお持ちですなー。柔らかそうで、寝そべってむにゅんってなってるのがまた、たまらないわね！　エロカワイイ服のセンスもバッチリ、このチラリズムときたらっ。あっちは隣のクラスの子よね、京ちゃんだったかな？　小柄でちょっと子供っぽくて、可愛いなぁナデナデしてあげたいっ！　エイミーちゃんとはまた違った魅力があるよね、健康美っていうのかなー。ああっもー、どっちも素敵！　良いわよー良い感じ！」
　彼女のソファに、ジュースやら何やら、飲み物の類が付随していなかったことが、ひとつ救いではあったかもしれません。もしそんなものでも誤ってひっかぶった上に、彼女が引っ込みつかないくらいにまで興奮してしまったなら……暴走する触手。絡め取られ、弄ばれる少女たちの柔肌。あられもない姿……！　とかなんとか、とても言葉には表せないような、のっぴきならない事態になっていたかもしれませんから。危ないところでした……！
「うーん、本当は触って楽しみたいところだけど……今日はこのまま、見るだけで。たまにはこういう楽しみ方も、良いよね！」
　という彼女もまた、後ろから見てみますと、制服のスカートの裾がちらちら、ちらりっと少々、キケンなことになっていたりもしますけれど。それには気付かず……はたまたお構いなしにでしょうか、ともかくも、はふぅん！　っと満足そうに熱い吐息を漏らしまして、
「ああっ！　今回の神魂は……良いものだ……！」
　未沙は飽きもせず双眼鏡を覗いては、絶景を存分に楽しむのでした。