あなたのお仕事！｜リアクション

あなたのお仕事！

　鞍馬楓、22歳。
　運送業者「ニャマト運輸」の新入社員だ。

「さてさて、今日も一日頑張りますか！」
　体調良し。バイク点検良し。アルコールチェック問題なし。
　営業所から荷物を受け取り、コースを確認。最初は手間取ったり、小さなミスもあったが、寝子島に配属されてからもう半年。一連の作業はよどみない。
（なかなかサマになってきたんじゃないかなー）
「……いけない。油断は禁物」
　自信は良いが慢心は危ない。楓は自分を戒めると、バイクに跨る。
「それでは、行って参ります！」
「はい、鞍馬さんもお気をつけて」
　顔なじみになった守衛に見送られ、楓は営業所を出発した。

　今日の１件目は旧市街。常連となったおばあちゃんへの荷物だ。
（内地に居る息子さんが、よく色々送ってくれるんだっけ）
　潮風を受けながら、楓の乗ったバイクは寝子島街道を北上する。車道はいつものように適度にまばら。ついつい速度を上げたくなるのは走り屋の性か。しかし仕事中は時間と荷物を厳守が第一だ。
「まいど～☆　しろねこニャマトの宅配便でっす！」
　目的の家に到着。インターホンを押す。
「おばあちゃーん！お届け物ですよー！」
　しばらくして扉が開いた。
「おやおや、今日も元気ねぇ」
　玄関から出てきたおばあさんから判子を貰う。
「そこそこ重いですし、あたしが運びますね」
「いいのかい？」
「いえいえ、お安い御用ですよ」
　隠れ力持ちの楓。家の中へ入り、示された部屋に荷物を運んでいく。庭に面した居間だった。縁側には陽だまりができていて、小太りの猫が寝ていた。反射した光に部屋は思いのほか明るい。
「これ、どこに置いときましょうかー？」
「そこの壁際にお願いね」
　おばあさんが盆を手に現れた。
「いつもありがとうねぇ。お茶どうぞ」
「あ、いえいえ！　まだこの後お届け物があるので」
「でも、朝から走りっぱなしでしょう。休憩もしないと」
　まだ一軒目なんです。
　バイクだから大丈夫です。
　そう言おうとした楓だったが、好意を無下にするのも忍びない。
（なにか、いい断り方を）
　難題に、楓は頭を使って考えた。

　寝そべっていた猫が、気持ちよさそうに寝返りをうつ。
「今日は暖かいねぇ」
「そ、そうですね……」
（け、結局引き止められちゃいましたよ……！）
　縁側でお茶をすする楓。人情には弱かった。

「ふぅ、これで旧市街は終わり」
　そんな楓だが、以後は無事にあらかたの配達を終わらることができて、ほっと一息。
（次はシーサイド経由で、帰投ですねー）
　帰りのルート確認をしていた時――悲鳴が聞こえた。
「え、何！？」
　見れば歩道で倒れた女性の姿。そして女性の鞄らしきものを持って逃げる自転車の男。
　ひったくりだ。
「大丈夫ですか！？」
「は、はい。でもバッグが」
「任せてください、軽くとっ捕まえますよ！」
　威勢よく言い、バイクを発進させる楓。
（白昼堂々犯行とはいい度胸ですね！）
　幸い相手は自転車。みるみる追いつく。気づいたひったくり犯がわき道に逃げようとするが、コーナーテクで追いつき、更に追い越す。
「そこまでですよ！」
　急停止したバイクが自転車の進行方向を遮り、慌てた犯人が転倒する。犯人が起きるより早く、楓は腕をとって捻りあげた。悲鳴が上がる。
「逃がしませんよ。警察にたっぷり灸を据えてもらいなさい！」
　楓が不敵に、そう宣告した。

「分かっておるのかね、誰かが怪我をしたらどうするつもりだ！？」
　年取った警官が説教をする。
「ご、ごめんなさい……」
　半泣きで縮こまるのは、楓である。
　危険運転――を情状酌量しての、口頭注意だ。
「あ、あの。私この後、配達が」
「逃げるか！？　まったく、最近の若いもんは――」
　なんだか長話が始まった。当分放してもらえそうにない。
　とほほ、と楓はうなだれた。