あなたのお仕事！｜リアクション

あなたのお仕事！

　暗道忍23歳、フリーター。
　忍は様々なバイトの掛け持ちをしている。

　彼の朝は早い。
「さて、今日も一日頑張ろう！」
　星が丘にあるマンションの一室。起床した忍は、目覚めと共にカーテンを開けた。
「……つっても３時だとまだ暗いな」
　窓の外には四角い黒と、常夜灯の灯りが見えるくらいか。
　11月ということもあり、カーテン越しにわだかまっていた冷気が窓から漂って来る。
　忍はカーテンを閉めると、体をほぐしながら今日のアルバイト予定を確認した。
「ありゃ？」
　いつもはびっしりと埋まっている忍のスケジュールだが、今日の項目は以下の3点。
　朝の新聞配達。
　午前はステッラ・デッラ・コリーナでの朝食準備。
　夕方からカラオケボックス『シャンテ』にて従業。
「そうだった。今日はゆるめに仕事入れてたんだったか」
　いつもより空き時間が多くなりそうだ。その時間はどうするか。
「働きながら考えるか」
　新聞配達に向かうべく、忍は身支度を整えに動き出す。
　ちなみに彼の部屋は、ちょっと掃除が必要だ。

　新聞配達が終わると、ホテル『ステッラ・デッラ・コリーナ』へ直行。
　まだ外は暗いが、裏方たるスタッフたちはせわしなく業務を行っている。
　忍も着替えると、厨房で朝食の準備を手伝う。
　ホテルの朝食は、意外と忙しい。
　国内の観光客の相手をしたり、外国の観光客の相手をしたり。
　しかも国によって、朝食に対する「普通」というものが違う。
（意外と気を遣うんだよな……）
　サービスが悪ければホテルの信用はすぐ落ちる。
（細かい気配りは世界共通で大事ってことだな）
　途中で注文があったくらいで、特に問題はなかった。
　朝食の時間が終わり、忍がようやく一息つくと、外はもうだいぶ明るくなっている。
「シノブ、朝飯まだだろう？　余りもので良ければ食ってけよ」
「ふむ、デザート付きか。ありがたい」
　職場仲間に好意に感謝しつつ、忍はちょっと遅めの朝食に入る。

　午後。
「おはようございまーすっと！」
　夕方からカラオケボックス『シャンテ』に入る。
「……って今日は店長やよく見る面子がいないのか」
　顔なじみの同僚は別のシフトらしい。そいてよくよく考えれば今日は休日だった。
（まぁ学生も休日明けに徹夜でカラオケには来ないか……）
　そのせいか来た時より人は少なくなりつつある。仕事帰りの大人は来店するが、今日はいつもより客足が遠い。
（取り合えずまぁ閉店時間までがんばりますかね）
　ここの店だけは、短期ではなく常に予定に入れてる。
　それだけ気に入ってる職場なんだよな、と忍は思う。別に一番金払いが良いというわけではないが、楽しく続けている。

（そもそも、金がほしいから働いてるわけじゃないってのが大きいのかもな）
　働くことで身につく知識や経験は必ずほかのことにも役に立つ。
　そのときの経験を生かしたりアイディアや横のつながりが意外なところで役に立つものだ。
　忍がその仕事をする時、もっとも重視するのはそうした経験や繋がりだ。
　働くことは人生経験。
　ここでの経験と作り上げた友好関係はいずれ必ず役に立つ。
（特に人の輪は絶対に必要だな）
　知識を広げる趣味にも即しているし、手にした資格も時々役に立つ。推理モノで百の資格を持った主人公が活躍するドラマがあるが、目標にしてもいいくらいだ。
　なにより、今でも仕事で関わった人の連絡先は大事に持っていて、交流は欠かしていない。
　それこそ忍が働く意義で、今までの努力の結晶なのだから。
「あの、すみませーん」
「はい、いらっしゃいませー。どうしました？」
　来客の声に我に返る。笑顔を浮かべ、忍は業務を遂行すべく向かった。

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