【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー｜リアクション

【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー

６．
　生徒会副会長にして、生物部部長、屋敷野梢。
　頼れる戦友、新井すばると神野美野梨の助力と、胸にぱんぱんの風船をしまい込み、盤石の構えである。
　不敵に笑う梢。
「これで私もボインです」
「ボインというより、おさげの軍艦鳥に見え……いやなんでもない」
　率直な感想をつぶやき、梢の殺気に満ちた視線に気づき、すばるは慌てて打ち消す。
　冷静沈着な彼、フォローも忘れない。
「何でもない。いいボインだ」
　戦闘態勢に入ろうとして、生物部の女子二人の絶対零度の視線を感じる。
　華道部の三人も、軽蔑の目を向けてくる。
　すばるは慌てて言い直す。
「あー、ちがう。そういう意味じゃな……」
　まだ冷たい視線。
「もー」軽度の逆切れ。「そんなことはいいや。三人で力を合わせて頑張ろう！」
　ごまかしたつもりのすばるを見て、美野梨は溜息をつく。
　頼りになるのか、ならないのか。
　
　ともあれ、幾多の難事件を解決してきた頭脳の二人。
　間違いなく優勝候補の一角の生物部。

「生物部……貴様らも、わが華道部の予算の礎となってもらう……」

　そう言って一歩踏み出したのは華道部部長、伊勢エリカ。
　一癖も二癖もあるメンバーを束ねる、実力者である。

　不意にあたりが、闇に包まれる。
　廊下が月光にぬれ、エリカのゲルマンの血統が濃い豪奢な顔立ちを、まるで彫像のように豊かな翳で彩る。
　大柄な彼女が纏うと、着物もまるで舞台衣装のよう。
　華やかで、あでやか。
　彼方から響いてくるトランペット、カスタネット。情熱的なギター。
　コルドバの荒野に響くフラメンコでなければ、必殺！　の処刑のテーマ。
「なに、せっかくの勝負事である――やるからには、全力で挑まねばな」
　桔梗の花が、月光に青白く煌めき、エリカが闇に吐息を燃やした。

　華とて、生物のカテゴリーにある。
　華道部が、生物部にかなう道理はない。
　――本来なら！

　しかし持ち前の妄想力で、徹底的に必殺技をチュウニングしていた小萩。
　名前。効果。攻撃力。決め台詞。破られた時、改二へとオーバードライブする演出まで綿密に決め込んでいた。
　圧倒的妄想の小萩。それを黙ってみていたこまちとエリカ。
　華はもはや生物ではなく、兵器であり、武装であった。
　
　伊勢エリカ。彼女も華道部であり、イケメンであり、思う存分中二であった。

　裂帛の気合とともに、エリカが飛翔。
　桔梗の穂先が、するどく花弁を光らせ、生物部に迫る！
　沢桔梗――花言葉は、高貴。そして、敵意。

「たあっ！」

　闇に、ふわりと白い影が躍った。
　桔梗の花が掠め取られ、地に落ちていく。
　美野梨とすばるの捕虫網が、花の勢いを殺し、絡めとったのだ。
「お見せしよう！　生物部のたも捌き！」高らかに吼えるすばる。
「我らにとってはこの長いたもも、手の一部！」

　するどい形状の虫を捕まえる必要のある網。見た目より、はるかに丈夫だ。
　顔をゆがめるエリカに、美野梨がスポイトを向ける。
「スポイトウォーターライフル！」
　不意を突かれたエリカは、打ち出された水流の勢いに撥ね飛ばされる。
　そのさま、まさにテッポウウオのごとし。
　
　無闇な攻撃を避け、戦局をひっくり返す効果的な一撃を狙う。
　ミステリ研としても、知性に磨きをかけてきた彼女ならでは。

　銀の髪を濡らして、エリカは立ち上がる。
　唇は色を失い、頬は青く輝き、ぞっとするような美しさだ。
「生憎と、此方も必死でな……」
　右腕がピクリと動き、梢の背後の壁に桔梗が突き刺さる。
　心の臓まで、わずか数センチ。
　梢は冷や汗をかく。防御手段を取ることもできない。　

　戦況は拮抗する。
　バランスの良い火力で、中近距離に圧倒的なアドバンテージを持つ華道部。
　一方、生物部は多様な戦術を惜しげもなく投与し、戦況を支配する。
　
　緊張が熱く膨らみ、今まさに崩壊せんとする……。

　その瞬間！
　一陣の風の如く、戦場を駆ける人影があった！

「演劇部、推参！」

【演劇部／時代劇】