【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー｜リアクション

【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー

《百万の華》（ミリオネア・フラワー）

４．

「ぬー、難しいのです」
　手にした切り花をじっと見つめ、本条小萩は眉をしかめた。
　
　花の扱いはいつでも難しい。
　思うままにならず、満足いく生け花はなかなか作れない。
　天才、ウルトラ芸術センスの持ち主である自分にして、常に奥深さを感じる。
　――それにしても、今日ほど難しいと思ったことはなかった。
　矢絣の着物に、あでやかな赤が映える。
　一途な気持ちを表す矢の柄は彼女にふさわしい。
　肩に風船。「おムネが少し軽くなった気がします」とは、彼女の弁である。

「ふむー」

　つぶやいて、小萩は顔を上げた。
　巨大な大穴が、そこに広がっていた。
　雲ひとつない秋空に、鳶が旋回している。
　剥き出しの鉄骨は焼け焦げてひしゃげ、黒煙を立ち上らせている。
　まるで破壊度テストを行ったように、綺麗なコンクリートのヒビが、蜘蛛の巣状に大きく広がっている。

　――大山鳴動、花一輪。

　開始と同時に、華道部のもとに敵が殺到した。
　それなりにメジャーなものから、そんな部活あったのか、という連中まで。
　女性三人の華道部、与しやすしと見たか。
　あるいは、ただコメディエアーのもたらす酔いに身を任せたか。

【華道部／華】
　部長、伊勢エリカを筆頭に、本条小萩、秋ノ宮こまち、いずれ劣らぬ麗しさである。
　全員が着物をまとい、華道部正装での参加。

　硬質な冷たさの美貌。
　ゲルマンの血を強く感じさせる高貴な美しさ。
　少女らしい元気さと、誇らかな清新さを兼ね備えた「黙ってりゃかわいいのに」という愛らしさ。
　方向性は違えど、いずれ劣らぬ美貌の花。

　あるいは、その美しさに引き寄せられたのかもしれぬ。

「ブッヒイイイイイ！！！」

　瞳を血走らせた男どもが、こまちに殺到する。
　普段は触れることなど思いもよらぬ彼女だが、コメディエアーのどさくさに紛れて、顔を間近にのぞきこんだり、ちょっと触ってみたりできるかもしれない。
　髪、肩、あわよくば胸、腰！
　男の性が、彼らを駆り立てる。

　そんな彼らを、軽蔑を越えて、むしろ憐れみの目で見遣るこまち。

「……そこまでして、部費が欲しいの？」

　猛りきった男子の目の前に、小町はすっと花を突きつける。
　黄色のカーネーション。
　華言葉は『拒絶・軽蔑』

「あなたの攻撃、拒絶するわ」

　瞬間、こまちに突撃しようとしていた男子の動きがぴたりと止まった。
　動けない。
　こまちの鋭い視線に、まるで射すくめられたように、全身がこわばる。

　すっと、真紅の花を取り出すのは小萩。

　曼珠沙華、あるいは彼岸花。
　花言葉は『悲しい思い出』。

「――この部費争奪戦、皆さんにとっては『悲しい思い出』になることでしょう――」

　華道部が部費争奪戦に当たって、選んだ武器は、花。
　あえて小道具に頼らない。ひたすら己の技量と、厨二力だけが頼り。
　常日頃から残念な妄想に余念のない小萩、己の思い込みと能力、どこまで通用するか……。

　ふわりとコメディエアーが立つ。
　異様の風が渦を巻き、濃厚な香りをはらむ。
　それは死の香り。野辺送り。

　人差し指と中指で、曼珠沙華を構え、小萩の瞳が酷薄な光を湛えた。
　その唇が、笑みの形を作る。

　――鮮血の舞『クリムゾン・ダンサー』！