【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー｜リアクション

【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー

15.

　ゴウッ！
　蛇那伊の拳が唸りを上げた。
　刀の風船が、一瞬で割り飛ばされる。

「これが、毎年恒例の部費争奪戦なのね……」
　常に倍するオーラを煌めかせ、巨漢の男子生徒は笑う。
「私も燃えてきたわ！」
　フォー！
　灼熱の息吹を吹き上げ、すさまじい笑顔を見せる。
　
　此度の戦場は、尋常のものではない。
　刀たちはルールを踏み抜いてしまった。
　コメディエアーの加護が期待できない。
　
　一方、コメディエアーの守り手たるジャッジは、ほぼ無制限に加護を受けることができる。
　チート状態というやつだ。

　葉月、恩はもっぱら判定専門。
　実力行使は、他ジャッジの役目。

　蛇那伊を背にして、楓が銃をセットする。
「ゴム弾だがら、死にゃーしないだろうが、まあ、その間に風船とられるくらいには止まるかもしれんな」
　その銃口はまっすぐ円。

「ハート、ぶち抜くぜ（物理）！」
　彼に似合わぬ、陽気な発言。

　刀と円の頭の中で、警報が最高レベルで鳴り響く。
　――逃げる。
　――ジャッジとなった、今の彼らは、常識の通用する相手ではない。

　逃走経路を確認。
　全力疾走を開始しようとする三人。
　だが……。
「あっ！」
　雅人はたたらを踏む。
　強烈な睡魔が、正常な判断を許さない。
　白濁した霧の中を、ふわふわ歩くようだ。
　コメディエアー的にはおいしい展開なのだろうか、眠気は普段に倍して襲い掛かってくる。

「……刀君、五円玉貸して」円が、手を突き出す。
「金か？　八十円くらいなら用立てられるが……」
「違う！　五円玉！」差し出される硬貨を受け取り、紐を結わえ付ける。
「千鳥君のアイデンテテエのため……。催眠術」
　眠気に抵抗するのではなく、あえて眠気を利用する。
「そんな技もあるのか」刀が驚く。
「大丈夫。寝子島書房の情報だよ」
「また寝子島書房かよ！」

　大ピンチの三人。窮余の一策。
　だが、催眠術は、掛けられた人間にもリスクを要求する。
　無意識を傷つける真似を、犯してよいものか……。

「是非かけてほしいんだよー」ふらふらしながら千鳥が言う。「お願い、円ちゃん」
　支援部の本能か、友を思う気持ちか、それともいっそ寝かせてほしいというあきらめか。
　円は頷く。
　催眠術。成功するのか。
　大丈夫。「気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない」と寝子島書房の本にも書いてあった。
　刀も、固唾をのんで見守る。

　さっ。
　円が五円玉を吊るす。
　かくん。
　雅人が眠る。
　まだ振ってもいないのに、あっという間に成功した。
　
　――ゆらり。
　雅人が立ち上がる。
　一切の気配がない。まるで、死人のようだ。
　ふらり、ふらり、足先をゆらして、モップを構える。
　ただならぬ殺気に、邪奈伊は雅人を向く。
　
　だしぬけに、異様な方向からモップが振るわれた！
　
　人間の筋肉には、本能で制御される使い方というのが存在する。
　腱を違えないように、構造で押さえつけられている動きがある。
　だが、リミッターを外した雅人に、そんなものはありはしない。
　まさに『死角』から、彼は斬撃を繰り出す。

（――円月殺法！）

　かの眠狂四郎が使ったという、幽鬼の剣戟の如き、異様の殺法。
　見極められぬ。読めぬ。
　鉄壁のジャッジの布陣に、瞬間、穴が開いた。

　捕まるわけにはいかない。
　危機を察した刀、雅人を両脇に抱える。

　三人、恐怖の逃避行！
　闇の底へ、ひたすら走り始める！