【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー｜リアクション

【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー

17．

　――その、数分前。

「さーて、手近なところから刈り込んでいきましょう！」
　意気揚々と圭花が告げる。

　兵站は完成。段ボール箱に片端から、衣装、小道具、携帯用テントを突っ込んでいく。
　なにもたいそうなホールなんていらない。
　これだけ小道具があって、信頼できる仲間がいれば、どこでも自分たちの舞台ができる。
「なに、そうそう負けやしないわ……なんたって演劇部だもん」
　せかしに来た、ジャッジ用のかわいらしい粘土人形に、わっるい笑みを圭花は見せる。

　するりと猫の手袋を装着しながら、恵御納夏朝は考える。
（部費って……こうやって獲得するんだ）
　それぞれの部活らしさを演出しつつのバトル。面白さは常に優先。
（寝子高らしくて、面白そう……！）

　光沢をもった、しっとりしたファーをじっと見る。
　とても舞台道具とは思えない、しっかりした作りだ。
　思えばこの『チェシャ猫』の格好も、何度目かになる。
　寝子祭でも、この姿で参加。
　よくできた衣装をまとうたび、チェシャ猫としての自分が立ち現れてくるような気がする。
（僕も僕なりに……演劇部やみんなの為に……頑張る）

　今にも笑みだけ残して、闇の中に消え入りそうな、神秘的な風情のチェシャ猫夏朝。
　円はぎりりと奥歯を噛みしめる。
　怪人との対峙で、彼女とは何度も共闘した。
　そのたびごとに見せる不屈の精神や、卑怯な者への真摯な怒りには、感じるところがあった。
　敵には回したくなかった……。

（部費は大切だよぉ……うちは来年いないだろうけど）
　ぼそっと呟く由貴奈。
　最高学年ながらの参加である。
　のらりくらりのんびりと思わせ、時折見せる閃きは一流。
　被った着ぐるみのライオンのごとく、超絶の感覚で、刀の動きを嗅ぎ分けたのか。

　実はそんなことはなく、着ぐるみで廊下をうろついていたら、出会ってしまっただけなのだが。
　風体からして「奇襲は無理」と踏んでいた彼女、ちょっと吃驚である。

　獅子の着ぐるみを装着した由貴奈。
　胸の内に秘めたる秘策は何か。
　瞳は茫洋として、その心中を知ることはできない。
　策士にふさわしい、神韻渺茫のポーカーフェイスか。
　あるいはただ、眠いだけなのか。

　おそらく、刀や雅人の姿を見て「またなんかやらかしたか」とあきれているのだろう。
　彼女も学生支援部。面倒事に巻き込まれる二人の性格はよく知っている。
　
　刀は背中に汗を感じる。
　由貴奈の戦術の冴え、頭脳の切れはよく知っていた。
　何かの形でバトルを挑みたいと思っていた。
　だが、剣道というわけにもいかない。
　暗算。瞬殺されそうだ。
　料理。知人の召喚でもしない限り、まともに戦えそうにない。

　願ってもないチャンスだ。
　昂る。是非、相手をしたい。
　だが、今は……。

　個人技主体のぶち組。だが、その戦いのスタイルは、きめ細かく出来上がっていた。
　夏朝、由貴奈ともに、待ちの戦術。
　相手の面白さを十分引き出し、コメディエアーを充満させて、攻撃に転じる。
　居合のような戦術。
　互いの持ち味を生かす、演劇部にふさわしいスタイル。
　そして圭花が飛び道具で、強制的に相手のリアクションを引き出す。
　じっくり時間をかけた戦いだ。

　圭花が毒リンゴを取り出す。
　由貴奈と夏朝が、じりと構えを取る。

　廊下の果てに、無数の瞳を感じる。
　ジャッジが、追い付いてきたのか。

　その時！
　暗黒の廊下に、突如、スポットライトが当てられた！

『私たち、軽音楽部！』