人形の日｜リアクション

人形の日

7、小さな幸せを……
　
　まだまだ明るいが、チンドン屋の一行は寝子島を一通り周ってしまった。
　本日の夢の時間は終わり、それぞれ現実に帰っていくということだ。
　一日だけアルバイトでチンドン屋に加わった自覚のないもれいび、粕谷智仁もその一人であった。
　陽気なチンドン屋の一団と別れ、智仁はケースに入れたクラリネットを抱える。
　自らの住み家へ向かうのだ。
　恵御納夏朝は、そっと彼に近寄っていった。

　あの人がクラリネットの人かな？
　少し緊張するけど、僕は距離を縮めていく。
「こんにちは」
「あ、ああ、こんにちは」
　勇気を出して、挨拶するときょとんとした表情で返してくれた。
「クラリネットの音を聞いたら、嬉しい事が起きたよ。だから……ありがとう」
　僕は、それだけ言ってすぐに踵を返す。
　通じないかもしれないけど、別にいいんだ。
「ね、ハルくん」
　もう返事はない。
　けど、ハルくんには伝わってるはず。
　僕は胸に宿った、小さな幸せの元のようなものを抱えたまま、寝子島街道を小走りで駆けていった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了

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あとがき

担当マスター：八花月
ファンレターはマスターページから！

　お待たせいたせました。『人形の日』のリアクションをお届けいたします。
　八花月です。

　シナリオに参加していただき、まことにありがとうございます。
　人形というものは、それに魂など入っていない、生きていない、といくら頭でわかっていても処分する時に、ほんの少しためらってしまうものだと思います。
　大事にしているものなら尚更、ほんの少しどころではなく……現実に捨てられない、という人もいる思います。

　今回のシナリオのようなことがもし現実に起こったら、自分なら180度価値観が変わってしまう気がします。
　世の中のありとあらゆる人形は、普段それが私達にわからないというだけで、実は生きている、ということが分かってしまうと、ちょっと緊張してしまいますね。

　……やはり人形は、喋らず動かず、人形のままが一番良いのかもしれません。

　それでは、またご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

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