猫鳴館、自治会長選任戦｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦

●アァ御神体

　早朝、山に登りし者あり。名を横嶋下心という。
　彼に付き従いし者あり。名を桃原空音という――。

「猫鳴館へ来たら先ずは御神体を観察したいと思ってたんだ」
「あたしも。同志がいてうれしいなっ！」
　下心と空音、桃色破廉恥小隊のふたりは、猫鳴館裏山の清水付近にいた。
　身を屈め、『御神体』に手を合わせる。
　彼らのいう御神体とは、全部で４体のメイド姿の美少女可動式フィギュアである。
　これらは先日、猫鳴館のエロリストであり桃色破廉恥小隊の参謀でもある草薙龍八の手によって、この地に据えられたものだった。ちなみに、下段の３体が巫女であり、上段の１体が『ＤＴの守り神』であるらしい。さらに、製作者は龍八自身であるという噂もあったりするようで――。
「この微に入り細を穿つ出来栄え、流石は龍ちゃん。無機物にはそれほど興味のない俺だけど、それでも興奮するね！」
「うんうん！　パーティのキャベツ売りのときに、瓢くんの陣営でこの『ＤＴの守り神』の萌えきゅんブロマイドをつけて売ろうと思ってるんだ」
「買います！」
　きゃっきゃ盛り上がる空音と下心。『ＤＴの守り神』の姿が、大田原いいながろっこんで大人になったときの姿にうりふたつであることは公然の秘密だが、少なくとも空音はそのことを知らないらしい。
　そういえば、と下心は言う。
「以前、龍ちゃんが皆の大切な聖書（性書）を燃やしちゃったらしいんだ」
　酷い、酷いよ龍ちゃん！　と頭を振る下心。
「ああっ、そのときの猫鳴館の人たち気持ちわかる！　人のエロでも奪われる痛みはわかるんだからね！」
　意気投合し、がしっと手を取り合うふたり。
「これから皆が抱えている熱い桃色の情熱をどうやって発散すればいいのさ！？　御神体？　それだけじゃあきっと足りないよ！　というわけで、俺の桃色で破廉恥な秘蔵コレクションをここでお祓いしてから、猫鳴館に寄贈しようと思う」
「あたしっ、いま、隊長のお心にモーレツに感動してるよっ！」
　このように彼らは御神体の前で熱く語りあったのだが――彼らの名誉のためにこのあたりで。

●いとこ来訪

　まだ午前中だったが、猫鳴館寮内は、午後のパーティに先立ち訪れる人々で、徐々に賑わい始めていた。
　八重崎五郎八もそのひとり。いとこの如月庚がしっかりやっているか、パーティを口実に見に来たのだ。
　五郎八は腕組みをしたまま庚の部屋に入ると、開口一番こう言った。
「ま、庚くんの事だしちゃんとやってはいるんだろうと思ってたけど……及第点にはあと一歩かなー？」
　部屋を見渡す。文庫本やハードカバーがそこかしこに乱雑に積まれている。庚らしいといえば庚らしい。
「姉ちゃん……本を適当にひっくり返すのはやめてくれ」
「なによー。武士の情けで、事前に連絡入れたでしょ。見られて拙いものがあるなら対処しとくよーに、って気遣いだったのに」
　五郎八の気遣いは庚もわかっていたのだが、自室の荒れぶりに「どーすんべ」で思考が停止し、片付け終えるところまで至らなかったのだ。
「ほら……部屋は見たからもういいだろ……ここでの友人を紹介するから」
　じろじろ部屋を見られるのも照れ臭くて、庚は五郎八を次の場所へと案内した。

　台所は、寮の中で一番賑わっている場所だった。
　その中で大福が台所を仕切っている。
「若者が多いからメニューは肉中心にしようか。森や逆巻は前にお肉が食べられないと言っていた気がするから、湯豆腐や野菜、煮物なんかも用意しよう。コータロー、米、何弾まで炊けた？」
「いま１２弾目セット中ー」
「了解。天馬は、できた分から順に外に運んでくれるか？　学生支援部の連中が、もうテーブルは出したって言ってたから……」
「わかったよっ」
　大福がふと顔を上げた。
「……あっ、如月どこ行ってたんだよ」
「わり。いとこが来るっていうからよ……案内」
　庚は五郎八に、大福、荒太郎、ひびきを紹介した。
「あー……こいつら、ダチ」
　五郎八がぺこりと頭を下げる。
「いつも、うちの庚くんがお世話になってます」
「……母親みてぇな挨拶」
「あはは、身内としての挨拶だよ。ところで、庚くんはこちらでしっかりやっているのかな？」
　大福が代表で答える。
「あ、はい……今日も、彼の料理を楽しみにしている寮生がいるくらいで……あ、そうだ如月。けんちん汁は煮立ってたから火、止めといた。味付け頼む」
「どれ……」
　庚はすっと仲間の輪に入ってゆく。その姿を、五郎八は心地よく眺めるのだった。

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猫鳴館、自治会長選任戦

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