猫鳴館、自治会長選任戦｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦

●日曜日に支払う人々・その１

　昨日、天野に受け取りを断られた神野美野梨は、結局、真央に１ヶ月分９００円を払うことにした。
　準備していた残りの５ヶ月分は月ごと払うことにする。
「猫好きなところにシンパシーを感じるし、元気でいいと思うわ」
「ありがとなのだー！　にゃにゃにゃがおー！」
　真央のがおーとにゃあにゃあ会話して戯れながら、美野梨はこれでよかったんだわ、と思う。
（おかげで部費も払えるしね……）

◇

　藤堂月乃と綾辻綾花、ふたりの猫鳴館の花は、大部屋の前で出会った。
「邪衣くん、どこにいるのかな？」
　そう尋ねたのは月乃だった。
「もしかして、藤堂さんも邪衣くんに投票ですか？」
「ということは、綾辻さんも？」
「ええ。邪衣くん、よく大部屋の押入れから出てくるからここにいるかもって、……もしかして？」
「思った！　おんなじだね！」
　月乃と綾花は顔を見合わせて笑ってしまう。
「選任戦、誰に投票するか迷いますよね。お話した事ない方も多いので」
「そうだよね。綾辻さんはどうして邪衣くんに？」
「纏め役が向いてそうなのと何かあっても強そうだから、でしょうか。熊ごろしのイメージっていうか……」
「いつも熊皮被っているもんね」
「話しやすいのは真央ちゃんかな、と思ったんですけれど、意見を纏めるのは邪衣くんが向いてる気がするんです。藤堂さんは？」
「猫鳴館を認めてもらうために交流をって言っていたから、かな。立候補者のみんながそれぞれにこの寮をよりよくしようとしているけど、投票できるのは１人にだけ。選ぶ方もつらいよね」
「本当です」
　くすくす、こんなガールズトークを交わして。
「ところで、この戸、開けてみた？」と月乃が大部屋の戸を指差す。
「いいえ。防犯モードがＯＮになっていますから……ほら、タライの仕掛けがあるでしょう？」
「そーっと開ければ大丈夫じゃないかな」
「勇気、あります？」
「一緒になら」
　ごくりと息を飲みこんで、大部屋の戸にふたり手を添え――。
「何してるんだ？」
「「きゃあっ！」」
　突如背後から掛けられた声に、ふたりは思わず悲鳴を上げた。
　振り向けば、目を丸くした士が立っている。
「邪衣くん、探してたんだよ！　はい、寮費。がんばってね！」
「私からも。頑張ってください。応援してます」
　月乃が１ヶ月分９００円を、綾花が３ヶ月分２７００円を士に渡す。
「半年はお小遣いが厳しいので難しいです」と謝る綾花に、士は「充分だよ」と礼を言う。
　それから、士は、月乃の視線に気づく。
「なんだ？」と問うと、月乃は人差し指を咥えるように口元に当てた。
「邪衣くんがいつもかぶっているその熊の毛皮、手触り気になる……。さわってみたいなー……」
「……そう、か？　まあ、かまわないが……」
　妙な申し出に戸惑った邪衣だったが、すこし屈んで女子二人に熊皮を触らせてやることにする。
「ぬいぐるみよりは、ごわごわだね」
「きっとこれが天然なんですね」
　これが二人の感想だった。