【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール｜リアクション

【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール

　そして裏ミス、熱湯風呂への挑戦者もいよいよ残すところひとり。
「最後にこの恐怖の地獄風呂に挑戦するのは――！」
「骨削瓢さんでーす！」
　すっかり板についてきた安本マコトと結梨亜・カールシュテインの司会。
　２人に紹介されステージに登場したのは、気だるそうな雰囲気をした小柄な少年――ではなく、骨だった。
「……骨」
　観客の誰かがつぶやく。
　ステージでからりと乾いた音を立てぎこちなくお辞儀をしたのは、それは見事な骸骨だった。一応夏らしくということなのか、その頭にはちょこんと麦藁帽子乗せられており、今にも折れそうな首には『逝こう！１－１ホラー喫茶！（フツウの喫茶もあるよ）』と書かれたプラカードがぶら下がっている。
「露出、露出。露出しすぎちゃいましたぁ、ってね」
　当の骨削本人は、ステージの上――太い梁の上によじ登り糸をたらして骸骨人形の「お菊さん」を操っている。彼の姿は完全に隠れており、ステージでは骸骨が１人で不気味に踊っているようにしか見えない。

　どうやらこちらの演出の意図を汲んでくれたのか、ステージの照明は仄かな薄青の暗がりを作り出し、ＢＧＭはまるでお化け屋敷のようにおどろおどろしいものになっている。
「え、えーっと！　熱湯風呂のシメにふさわしい出場者！」
「死ぬ前から死んでいる！　骨削瓢さん改め、骸骨人形『お菊さん』のチャレンジです！」
　どうぞ！　という司会の合図に、骨削は骸骨人形をがしゃりと熱湯の中に沈めた。
「ひえー、あつそ。あっしの代わりにがんばってくれよぃ」
　当然人形なので熱湯風呂に入れても問題はない。
　が、問題がないままではつまらない。骨削はわざと指にかけた糸をでたらめに動かしてみせる。その動きにあわせて熱湯の中の骸骨はガシャガシャと苦しげにうごめき出す。
「ひっ……」
　前列の観客が息を呑んだ。
　やたらめったら骸骨を動かしているあいだに、「たまたま」骨と骨のあいだに上手く仕込んであったらしい血糊袋が破けてしまったようだ。あふれ出した血糊は瞬く間に湯を赤く染め上げ、透明なバスタブは一気に血の池地獄と化す。
「きゃああああ！」
　真っ赤な地獄の釜で苦しげにうごめく髑髏の人形。　
　その真に迫った恐怖演出に、たまらず数名の女子が叫び声をあげる。
　連鎖するようにあちこちで上がる鋭い悲鳴に、骨削はひとり満足げにほくそ笑んだ。
　がしゃん。最後は骸骨が湯船の底に崩れ落ちるようにして終了。
「こ、これが最後の熱湯風呂でよかったですね、マコト先輩……」
　結梨亜の怯えたような声に、だね、と安本も語尾を震えさせながらうなずく。
　残された血の池は浸かるには凄惨すぎる。
　こうして、多くの者を苦しめた熱湯風呂は、骸骨の死という衝撃的なラストによって締めくくられるのであった。
　