【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール｜リアクション

【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール

　大勢の人の前で発表する機会――
「すごいのだすごいのだ、これはまたとない宣伝になるのだっ」
　そう言ってステージ端で目を輝かせているのは、後木真央である。
　全身猫スーツに身を包んだ彼女は、陸上部と新聞部のイベントを宣伝すべく、大量のチラシを抱えていた。もはやパフォーマンスよりも宣伝が目的であるようだ。
「この際コンテスト順位なんぞ、二の次なのだ！」
　やがて自分の番を迎えた後木は、動きも猫のようなしなやかさでステージへと走っていく。
「にゃにゃにゃ、にゃにゃんにゃー！」
　

　可愛らしい笑顔でポーズを決めつつ、彼女が披露するダンスは新体操のように軽やかだ。
　手にしたボールと宣伝用ののぼり旗を、まるでバトンのように器用に振り回してみせる。
「にゃ！　陸上部も宣伝部も、明日の文化祭でイベントをやるのだっ！」
　ぴょこぴょことした可愛らしい、しかしどこか野生的な力強さを感じさせるダンスを終えると、後木はぶんぶんと手を振り回しながらアピールをする。
「運動場では陸上部のスポ魂喫茶アスリートが、体育館では新聞部射撃部の合同ＲＰＧ風イベントが開催されるのにゃ！」
　詳しくはこちらまで、と後木は紙飛行機に折ったチラシを辺りにバンバンばら撒き始める。
「どちらも無料イベントありなのにゃ！　お待ちしてるのにゃーん」
　可愛らしい外見とは裏腹に、宣伝魂にあふれた見事なステージ。
　彼女の体を張った広報活動のおかげで、この２つの出店は集客アップ間違いなし！　……かもしれない。

　飛んできたチラシを拾い上げながら、ふうん、と首を傾げるのは巫部紫苑。
　次にステージを控えるため脇で待機していた彼女は、そのイベントに興味ありげにチラシに目を通す。
「……食べ物も用意されているのかしら？」
　先ほどまでさんざんサンマパンを食べてきた彼女。
　しかしまだまだその食欲は治まらないようだった。
　あれほど食べたというのに、水着に着替えた彼女のプロポーションは抜群のものだった。黒い大人びたビキニに、半透明のパレオが上品にふわりと彼女の足をつつんでいる。手にした傘をくるくると回しながら、実行委員の合図を見て巫部はステージへと歩き出した。
（ダンス、といっても……こんな感じでいいのかしら？）
　慣れていないながらも、その豪奢な水着のパレオをふわりと舞い上がらせるだけで自然と様になっている。舞うようにくるりと回って優雅に一礼。

　それだけのあっさりとしたダンスだったが、会場からは大きな拍手が巻き起こる。
「ええっと、アピールって……何をすればいいんでしょう」
　戸惑いながらも彼女はにこりと笑ってマイクを片手に話し始める。
「どうも、巫部紫苑です。コンテストということで少しおめかしをさせてもらいました」
　……いかがでしょう？　とうかがうように尋ねると、前列の男子が「似合ってるよー！」と熱烈な声援を送る。そんな彼に、巫部は嬉しそうにふわりと笑ってみせた。
「ありがとうございます。アクセサリーは借りたものなんですけどね」
　あ、でも水着は自前ですよ、とアピールするように一歩前に出る。
「夏は別の水着を持ってたんですが……あちこちきつくなっちゃって、新調しちゃいました」
　そう言って、胸元やお尻の辺りを触りながら巫部は困ったように笑って言う。
　あれだけ食べた栄養分は――どうやらしっかり有効活用されているようだ。
　そんな彼女の振りまく色気に、すっかり男子たちは魅了されてしまった。自分に届く熱い視線を知ってか知らずか、巫部はさっと身を翻す。
「この後もたくさん魅力的な方がいますから、皆様最後までお楽しみください」
　それでは私は食事の途中でしたので、失礼致しますわ。
　ではごきげんよう、と一礼をすると、手にした傘をくるくると回しながら軽やかにステージから去っていく。
　――途中、隅に寄せられたテーブルの上のサンマパンをふたつみっつ失敬しつつ。
「……うん、辛いけどやっぱりおいしい」
　早速もぐもぐと食べながら、立食コーナーへと戻る巫部だった。