【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール｜リアクション

【寝子祭】前夜祭ダンシングアピール

　多くの者を地獄の苦しみに叩き落す――
　つもりが、思った以上に彼らの気概の強さを証明してくれた熱湯風呂。
（……やっぱり、挑戦してみたい、よね）
　その「焚きなおし」という係に任命された蜂矢時生。
　今、彼は――自分自身の限界を試すために、その熱湯風呂を焚きなおしている。

　名前を呼ばれステージに現れたのは、蜂矢その人だった。
　水着だけを身につけた彼は、まるでいつものプールサイドを歩くように飾らず、自然体のまま観客席に手を振ったりしている。
　せっかくなら人数多い方が盛り上がるよね、という理由で参加した蜂矢。彼の披露する入場ダンスは気負いのない彼らしい、あっさりとしたステップダンスだった。アイリッシュ調の曲に合わせて踊る様は、やわらかだがどこか飄々とした彼の独特の魅力を充分に引き出している。
　その飾らない楽しげな様子に、客席から自然と手拍子が巻き起こる。
（英国で、少しだけ教えてもらったけど……意外と役に立ったかも）
　たんっ、と締めのステップを踏むと、ぺこりと一礼。
　そんな彼の背後に控えているのは――そう、毎度おなじみ熱湯風呂。
（……どれくらい熱いか、気になってた）
　挑戦者たちがあれほど熱がっていたのだから、よっぽどなのかもしれない。
　あるいは――みんな思いのほか耐えていたから、実はそうでもないのかもしれない。
「じゃあ……入ります」
　会場を見渡すと、意を決して――どぼんとお湯に浸かる。
「……！」
　飛び込んだその風呂は、覚悟していた以上の熱さだった。
（あ、あっつ……！）
　思わず飛び出しそうになるが、観客席から自分に声援を送る生徒たち――その中に、これまでこの風呂に挑戦してはじっと耐えてみせた出場者の姿もちらほらと見え、蜂矢の心は自然と奮い立つ。
（……あっさり根を上げるわけには、いかないか）
　風呂から出ようと縁にかけた手にぎゅっと力を込めると、かたく目をつぶる。
　……それからどれくらい経っただろうか。
　さすがに頭がぼーっとしてきた。これ以上はまずいと勢いよく飛び出すと、隣で控えていた実行委員が問答無用で頭から冷水をかぶせてくる。
「うわっ……！」
　心配してくれたのはありがたいが、さすがに眼鏡も外さずにかけられてはたまったものではない。
　

「…………」
　火照ってぼんやりする頭で実行委員――とっさに冷水をかけた篠崎響也を見ると、彼は心配した様子で蜂矢に尋ねる。
「……大丈夫か？　かなり長い時間、入ってたからさ」
　篠崎の言葉に、大丈夫、と蜂矢はうなずきながら答える。
「ただ――」
　どれだけ熱いか試せて、いい経験になったかな。
　そっと笑って蜂矢がそう言うと、そっか、と篠崎も笑って彼にタオルを渡した。
　実行委員だからって、裏方に徹するだけではつまらない。
　やっぱり参加してよかった。大きな拍手に包まれながら、蜂矢はそう思うのだった。